多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

レビュー

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多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

「革新」生む 異種の交わり

 いまさら多様性かよ。いささか陳腐ではないのかと思いながら読み始めた。

 第1章『画一的集団の「死角」』と第2章『クローン対反逆者』では、その感が強くなるばかり。ところが、第3章『不均衡なコミュニケーション』あたりから俄然(がぜん)面白くなってきた。たとえメンバーに多様性があっても、リーダーを固定してしまっては意味がない。なるほど、単に多様性を確保するだけでは不十分なのだ。

 イノベーションには「段階的にアイデアを深める」ものと、「標準的とは言えない組み合わせ」によるものとがある。画期的なイノベーションは後者、いわば「アイデアのセックス」によるものだ。しかし、頭ではわかっていても、多くの人は自分の経験にこだわってしまう。第4章『イノベーション』の結論は「クールなテクノロジーを発明したいなら、頭が切れるより社交的になったほうがいい」ということだ。天才よりも社交家をめざすべし。

 閉鎖的な状況では特定の考えが強化されがちという『エコーチェンバー現象』についてが第5章だ。大学に入学してどんな人と付き合うかの研究がある。大規模校と小規模校だと、どちらがより多様になるだろう?そら大規模校でしょう、と思われるかもしれないが、正解は逆だ。

 理由は、大規模校だと人数が多いので自分と似た意見の人を見つけて付き合いがちだが、小規模校だと、やむなく意見を異にする人と付き合わざるをえないから。この本、いくつもの面白くて意外な研究に裏打ちされているのが素晴らしい。

 第6章の『平均値の落とし穴』は、「標準を疑え」という戒めだ。さまざまな計測値(体重や身長などどんな数値でもいい)では平均値が算出され、その値に沿って物事が決められてしまいがちだ。しかし、平均値そのものに当てはまる人など決して多くはない。各人固有の数値、すなわち多様性を勘案せねばならないのだ。

 「個人主義を集団知に広げる」ために『大局を見る』ことが必要というのが最後の章だ。そのためにはまずこの本の「多様性」という言葉に込められた多様な意味を学んでみることをお勧めしたい。

読売新聞
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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