なぜヒトだけが言葉を話せるのか コミュニケーションから探る言語の起源と進化 トム・スコット=フィリップス著 東京大学出版会

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜヒトだけが言葉を話せるのか

『なぜヒトだけが言葉を話せるのか』

著者
トム スコット=フィリップス [著]/畔上 耕介 [訳]/石塚 政行 [訳]/田中 太一 [訳]/中澤 恒子 [訳]/西村 義樹 [訳]/山泉 実 [訳]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784130820202
発売日
2021/07/02
価格
4,400円(税込)

書籍情報:openBD

なぜヒトだけが言葉を話せるのか コミュニケーションから探る言語の起源と進化 トム・スコット=フィリップス著 東京大学出版会

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

言語に先立つ強い思い

 言語でコミュニケーションする仕組みは、よくこんなふうに説明されます。話し手が意味を音声に変換して送り、聞き手はその音声から元の意味を解読する。言語は情報を受け渡しするコード(記号)だ、というわけです。

 たしかに、すっきりした説明のように思われます。ところが、本書の著者は、こうしたコードモデルでは、ヒトのコミュニケーションの本質は扱えないといいます。

 話し手が「雨が降っている」と言ったとき、聞き手が単にそのまま文字どおりの意味に理解しただけでは、コミュニケーションは不十分です。話し手の意図は「外出したくない」ということかもしれません。その意図が聞き手に届かなくては何にもなりません。

 話し手が相手とコミュニケーションを図るには、情報の内容だけでなく、「あなたに情報を伝えたいのだ」という意図を伝えなければなりません。イチゴのおいしさを知らせたい場合、相手の前でイチゴを食べるだけでは意味がない。相手においしい表情をしてみせたりして、自分の意図を明らかに示す必要があります。

 著者によれば、人類は進化するなかで、こうした「意図明示コミュニケーション」を生み出したといいます。類人猿などとは基本的に異なるコミュニケーションのありかたが、やがて人類に言語をもたらす下地になったらしい。

 納得しやすい説明です。大昔の人類は、「相手にこうしてほしい」といった意図を表現したくてしかたがなかったのでしょう。身振りでも何でも使って、相手とコミュニケーションしたいという強い気持ちがあった。それが言語の獲得につながったのだろうと思います。

 人類は長い歴史の中で、徐々に記号を解釈する力をつけ、言語を持ち、文法を発達させてきました。そうした変化は偶然に生じたものではなく、おそらくは相手との意思疎通を切実に求めた結果だったのです。西村義樹他訳。

読売新聞
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加