野生のごちそう 手つかずの食材を探す旅 ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ著 亜紀書房

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野生のごちそう

『野生のごちそう』

著者
ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ [著]/棚橋 志行 [訳]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750516967
発売日
2021/05/26
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

野生のごちそう 手つかずの食材を探す旅 ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ著 亜紀書房

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

自然を食す 強欲と知恵

 本書は、環境人類学者が野生の食材を追って世界各地で調査し、専門知識を駆使して野生の食材にまつわる人類の営みを論じた良質な民族誌だ。同時にコンゴ民主共和国で出会った男性と心を通わせ自らを見つめ直す恋物語でも、料理を示す詩的な言葉に食欲と未知の世界への好奇心を刺激されるノンフィクションでもある。

 旅は、ジビエや野草を使った創作料理を出すデンマークの高級レストランから始まる。狩猟採集から農耕へと移行し、家畜や栽培植物に依存するようになった人間にとって、手つかずの自然を食すことは贅沢(ぜいたく)な体験になった。自然を飼いならしてきたはずの人間が退屈な日常でつかの間の恍惚(こうこつ)を味わうべく野生を希求する。この矛盾は、人間と自然との歴史に浮かび上がる人間存在そのものの両価性を体現している。

 大航海時代、想像を絶する数のウミガメを食べて生きのびた航海者。薬草や毒草の知識と一握りの植物の種だけを携えて海を渡ったアフリカ人奴隷。人類の移動と植民地化は世界の生態系を根本から変えた。文化と対置された「野生」は先住民や土地の支配を正当化する用語となり、失われゆく野生とその知識は博物館に保存・展示されるものとなった。自然保護の舞台となった現在のコンゴでは、家父長制や植民地化、独裁政治の遺産によって周縁化された女性たちが、密猟された野生動物経済の中核をなす。野生動物の肉を病原菌の源として恐れる白人に対し、コンゴからの移民は化学薬品に汚染された肉こそ不健康だとする。スウェーデンの森のヘラジカ料理、ボルネオで採集される燕(つばめ)の巣。野生のごちそうには人間の愚かさや強欲さの歴史と自然への敬意と知恵が同時に刻まれている。

 野生を飼いならそうとするのも、ありのままの野生を切望するのも人間らしさだと著者は言う。とすれば、環境破壊への対応が迫られる私たちに必要なのは「人間らしさ」を飼いならす知恵かもしれない。棚橋志行訳。

読売新聞
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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