『魔の山』
- 著者
- Deaver, Jeffery, 1950- /池田, 真紀子, 1966-
- 出版社
- 文藝春秋
- ISBN
- 9784163914404
- 価格
- 2,750円(税込)
書籍情報:openBD
人気作家の最新シリーズ第二弾 自己啓発カルト教団への潜入捜査!
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
『ネヴァー・ゲーム』に続く、ジェフリー・ディーヴァーの新ヒーロー、コルター・ショウが活躍するシリーズの第二弾。
ショウの業は訳者あとがきにもあるように、賞金稼ぎではなく、行方不明者を発見するより広い意味での懸賞金ハンターで、作者がショウのために考えた職業であるという。
今回は、教会を襲撃したとされる若者二人―エリックとアダムを追っていた。が、教会の件は冤罪であるにもかかわらず、アダムはショウの眼の前で断崖から身を投げて死んでしまう。
彼は何故、死を選んだのか。ショウは、アダムが研修を受けていたカルト教団“オシリス財団”への潜入を試みるが、その矢先、教団に関する記事を書いた新聞記者が殺害されていた事実を知る。
自己啓発といいながら、この教団が推し進めているものは何なのか。ショウは指導者イーライの周辺をさぐるが、ベートーヴェンの「歓喜の歌」が流れる中、彼がこの教団に入った本当の目的は何だ、と、追いつめられてゆく。
作中、この教団内での潜入捜査はかなりのページ数を占めるが、読んでいて生理的嫌悪を抱かざるを得ないその雰囲気はかなりのもの。そして、若者の自殺にある程度の答えを見出したショウは、果たして無傷で脱出できるのか。
作中では、ショウが困難に立ち向う度に父親から叩き込まれたというサバイバル術の数々が示され、正しく興趣満点。
そして物語は、この事件ばかりでなく、父の死に関するそれのはじまりで幕を下ろす。「父の探求の旅はいま、息子に引き継がれた」が結びの一節であり、ズルいなと思いつつも、既に刊行されている第三作の翻訳を待つ心を抑えることができない。
流浪の名探偵との再会を満を持して待とうではないか。