三島由紀夫もサウナーだった!? 汗だくで読みたい堂々たる労作
[レビュアー] 都築響一(編集者)
人生で最初に体験する風呂の快感は生まれたての産湯のぬくもりだろうが、オトナになって最初に体験するサウナをいきなり快感と思う人は意外に少ないらしい。オトナの快楽にはつねにマゾヒズムが潜むと知る、その典型例たるべきサウナが……ちかごろブームなのだ。「サウナー」(サウナマニア)、「サ飯」から「ロウリュ」まで、昔から仕事疲れをサウナで癒やしてきたお父さんには聞き慣れない専門用語がSNSで飛び交っている。
自他共に認めるサウナーであり、日本におけるサウナの歴史がきちんと研究されていないことに業を煮やした編集者が、仕事と子育ての合間に調査と執筆、このために出版社まで立ち上げた労作が草なぎ洋平による『日本サウナ史』。ハードカバー函入りの堂々たる、そして日本初のサウナ史研究書である。
『おろしや国酔夢譚』の大黒屋光太夫を日本に送り届けたロシア人アダム・ラクスマンが根室につくったという日本最古のフィンランドサウナ(1792/寛政4年)、アメフトを日本に紹介したことでも知られる柔道家・岡部平太が世界武者修行の途上で初体験したフィンランドサウナ(1924/大正13年)といった日本におけるサウナ受容の歴史から、銀座三原橋脇にあった東京温泉(懐かしい!)、三島由紀夫が自決前に楯の会のメンバーたちと会合を繰り返していた伊勢丹会館の後楽園サウナなど、興味深い逸話も満載。世の中にこんなにサウナ好きがいて、こんなに掘りがいのあるテーマに、いままでだれも取り組んでこなかったとは。
高温サウナでいくら汗を絞り出しても、休憩室の生ビールで逆戻りという「焼け石に水」パターンを繰り返してきた我がサウナ・ライフを思うと忸怩たるものがあるが、しかし焼け石に水をかけるのがこんなに気持ちいいなんて、最初に見つけた人間の偉業も称えておきたくなる、そんな一冊だった。
『日本サウナ史』は一般書店やネット書店では購入不可。公式サイトで注文のこと。https://amami.skin/products/japanesesaunahistory