奇想天外に窮地を脱する世界を股にかけた天才詐欺師

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世界をだました男

『世界をだました男』

著者
Abagnale, Frank W [著]/Redding, Stan [著]/佐々田 雅子 [訳]/レディング スタン [著]/アバネイル フランク [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784102227213

書籍情報:openBD

奇想天外に窮地を脱する世界を股にかけた天才詐欺師

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は、レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクス共演、スピルバーグ監督の大ヒット犯罪映画。でも、原作は映画以上に面白い。何しろ著者が“世界をだました”天才詐欺師フランク・アバネイル本人なのだから。彼は、’60年代にアメリカ国内はおろか世界26か国で偽造小切手詐欺を働き、4年間弱で250万ドル、今ならざっと三十億円を稼いだ人物。

 NY生まれの彼は16歳で家出。生活のために小額の小切手詐欺を働いたのがプロの詐欺師人生の始まり。実年齢より10歳以上年長に見える少年は、世界の翼(つい付けてしまう昭和生まれ)パンナムのパイロットになりすまして信用を得ることを思いつく。制服やライセンスを手に入れ、専門知識まで仕入れる方法は笑っちゃうほど見事。17歳の偽副操縦士は飛行機ただ乗りで全米各地を移動し、偽造小切手で大儲け。長身の甘いマスクとパイロットの制服で美女(もちろん年上)も思いのまま。ある時は医師として大病院に勤務。ここでの11か月はまるでコントのよう。19歳の時には、ハーヴァード・ロースクールの成績証明書を偽造してルイジアナ州司法試験に挑戦。数週間の猛勉強で合格し、州の法務官になった。判事から「実務はだめだが南部きってのベストドレッサー」と賛辞も(笑)。

 しかし、どこにいても常にFBIや各国警察に追われる身。大金はあっても安住の地はない。奇想天外な方法で窮地を脱する場面は原作と映画のハイライトだ。20歳の時にフランスで逮捕され、ベッドもトイレも紙もない独房で汚物まみれの一年。さらにスウェーデンで半年間収監後、アメリカの刑務所へ。ここを脱走する所で原作は終わるが、実際はすぐ捕まって服役した。

 映画は原作のエッセンスをうまく詰め込んでいて、主演二人が楽しそうに役を演じている。でも、痛快で驚きの詐欺の全貌が知りたいなら、是非原作を読んで。

 頭の回転の速さと鋭い観察力。専門書も読みこなす読解力と向上心。驚異のコミュニケーション能力と人間的魅力。彼が後にセキュリティ・コンサルタントとして大成功したことに納得。

新潮社 週刊新潮
2021年10月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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