『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』堀川惠子著(講談社)

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』

著者
堀川 惠子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065246344
発売日
2021/07/07
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』堀川惠子著(講談社)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

戦時輸送 無謀さ訴え

 視点、新史料の発掘、聞き取り調査、そして分析、構成、文体、本書はどれをとっても第一級のノンフィクション作品である。

 舞台は広島・宇品、兵隊と物資を輸送する旧陸軍船舶司令部。宇品港を作った広島県令(知事)千田貞暁の一字を取って「暁部隊」と呼ばれた。主たる登場人物は陸軍士官学校出身の歴代司令官とその参謀たち、輸送や兵站(へいたん)という陸軍のなかでは脚光を浴びない軍人の物語だ。

 前半に登場する田尻昌次中将は、民間の船舶も船員も不十分、武器も物資も不足するなかで、中国大陸から東南アジアへと南進することの無謀さを陸軍中枢や各省に訴えた。が、不審火もあって司令官を罷免(ひめん)された。

 現場の声を無視した大本営は戦線を南方に拡大、対米戦争を準備する。兵力・物力・輸送力を過剰に見積もり、米国に十分対抗できると過信し、最後は「ナントカナル」の精神主義。今でもどこかにありそうな情景だ。

 太平洋戦争では補給線が伸びると、米軍は輸送船を集中攻撃した。太平洋戦争中に撃沈された輸送船は7200隻以上。暁部隊は日夜奮闘したが、船舶・人員は質・量ともに貧弱。補給の失敗により、ガダルカナル島では味方同士が食料を奪い合う地獄絵となった。輸送に従事した民間の船員たちの犠牲も甚大だ。

 原爆投下時、陸軍船舶司令官は佐伯文郎中将。本土決戦もありうるなか、佐伯は独自の判断で全兵力を燃えさかる市内の人命救助と災害復旧に割いた。放射能汚染の危険を顧みず、戦闘司令所を市中心部に置いて、自ら陣頭指揮に立った。彼には関東大震災のときの陸軍の支援活動の経験があった。

 なぜ広島に原爆が投下されたのか。陸軍兵站の中枢、宇品の存在が大きかったのではないか。著者は米側の史料からそう読み解く。本書は歴史愛好家だけでなく、幅広い社会人に読まれるべき組織・リーダー論である。

読売新聞
2021年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加