『明治革命・性・文明 政治思想史の冒険』渡辺浩著(東京大学出版会)

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明治革命・性・文明

『明治革命・性・文明』

著者
渡辺 浩 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784130301787
発売日
2021/07/01
価格
4,950円(税込)

書籍情報:openBD

『明治革命・性・文明 政治思想史の冒険』渡辺浩著(東京大学出版会)

[レビュアー] 木内昇(作家)

変遷辿った男女らしさ

 黒船来航の騒擾(そうじょう)が日本を覆い、尊王攘夷(じょうい)の名の下に各所で志士が跋扈(ばっこ)しはじめる。開国、交易開始と目まぐるしい変化が訪れ、ついに二百六十年の太平を保ってきた幕府が瓦解する。西南戦争まで及ぶ明治維新を経て、欧化の一途を辿(たど)る中、人々はどんな価値観を育んでいったのか――多角的な視点から柔軟にひもといた一書だ。古今の戯作や小説、「自主独立」を唱えた福澤諭吉の著作を引きつつ、当時の人々のリアルな思想に触れているため、この革命への概念を覆される読者も少なくないだろう。

 外交事始めとなった幕府が攘夷党を牽制(けんせい)しつつも開国を模索する一方で、これを要請する異人たちは意外にも、日本人の清潔で健康で幸福そうな様を見て逡巡(しゅんじゅん)する。西洋の影響を及ぼすことが彼らにとってよいことなのか、と。長崎海軍伝習所で教鞭(きょうべん)を執ったカッテンディーケは、日本人の文明の高さにうなり、通弁のヒュースケンは、「質朴な習俗」を愛(いと)おしむ。日本独自の風俗や文化は、かほどに魅力的だったのだ。

 が、その価値観も時代とともに変容している。ことに、「男らしさ」や「女らしさ」の変遷を辿った項は興味深かった。戦国時代、武士は男色を好んだ。それこそが武門の花であり、女性を相手にすることはむしろ恥だったのだ。「カミング・アウト」なんぞと大仰な言葉で語られる現代とは大違いである。女性の理想像も江戸の昔は「情けがあり、芸があるのが女の中の女」だったが、明治以降「良妻賢母」が推奨される。そこに収まらぬ女性たちは、やがて独立した個人として生きることを求めはじめる。

 文明開化を経て競争原理が顕著となり、自由民権運動が台頭する。儒教と西洋思想が融合する国内の様子と共に、欧州や中国の思想も描かれ、人の在り方の多様さを改めて知った。変革期にはこうして足下の歴史を見つめ直すことが、自分たちの本質的な姿を把握する近道になる気もするが、はたして。

読売新聞
2021年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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