『持続可能性の経済理論 SDGs時代と「資本基盤主義」』倉阪秀史著(東洋経済新報社)

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持続可能性の経済理論

『持続可能性の経済理論』

著者
倉阪 秀史 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492396612
発売日
2021/07/09
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

『持続可能性の経済理論 SDGs時代と「資本基盤主義」』倉阪秀史著(東洋経済新報社)

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

ケア施し資本基盤維持

 米商務省は「GDPは二十世紀最大の発明の一つ」と述べたことがある。GDPを手に入れたことで、経済政策は成長志向となり、国民の多くもそれを受け入れてきた。だが環境問題や格差問題への関心が高まりつつある二十一世紀の今日、こうした経済運営に対する批判の声もあがっている。しかし、代替的な政策運営はどのようなものなのか。

 本書は、SDGs(持続可能な開発目標)に代表される「持続可能性」の理念を真正面から受け止め、それを実現するための新しい経済学と経済政策を構想する大胆な試みだ。前半で、「富」や「外部性」といった概念の形成過程が批判的に考察される。後半では、「資本基盤」という独自の概念が提起され、それに沿った政策運営が素描される。

 我々は、エネルギーや原材料のように、有用性を提供したら後に残らない「通過資源」と、有用性を提供した後も失われない「資本基盤」とを組み合わせることで生産・消費の活動を展開し、そこから有用性を得て生活している。持続可能性に焦点を当てるならば、より重要なのは「資本基盤」である。それは、人間の能力、人工物(インフラなど)、自然環境(生態系の機能)、社会制度を含むものとして構想されている。

 通過資源の利用は環境負荷を生じさせ、資本基盤を毀損(きそん)する可能性がある。この環境負荷を最小化する努力が必要であることは勿論(もちろん)だが、それに加えて、資本基盤の現状に注視し、必要なだけのケアを施し続ける必要がある。どの資本基盤をどの程度持つべきかを判断する際の基準となるのは、人間の尊厳ある健康で文化的生活である。また、資本基盤の持続可能性に関する判断は、専門的知見を用いて、市場の外部で行われるべきだと著者は主張する。

 いくつか疑問も残る。たとえば、専門的知見をどのように社会的コンセンサスの形成に結びつけていくのか。だが、こうした疑問にもかかわらず、著者の大胆な問題提起は賞賛に値するし、さらに検討されるべきだと思う。

読売新聞
2021年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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