『うろん紀行』わかしょ文庫文・写真(代わりに読む人)

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うろん紀行

『うろん紀行』

著者
わかしょ文庫 [著、写真]
出版社
代わりに読む人
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784991074332
発売日
2021/08/12
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

『うろん紀行』わかしょ文庫文・写真(代わりに読む人)

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 小説を読み、「どことも知れぬ駅に行ってなにかを思う」のが本書のテーマだ。笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』を読み鶴見線の海芝浦駅に行くのに不思議はないが、大江健三郎『万延元年のフットボール』を京急大師線産業道路(現大師橋)駅最寄りのコストコに行って読むとなると、その感覚に追いつくのは容易ではない。様々な場所に小説・漫画19編。読み、歩き、考え、感じ、記す。読書案内であり、紀行であり、作者の私生活の変化や自己省察の過程が同時に綴(つづ)られる。

 小説からの引用と現実の描写、その時々の思考が交互して織りなす文章には独特の柔軟な魅力があり、思わず引き込まれ、その余韻から何度も読み返す。永井荷風を評した「そういった傲慢さを傲慢であると思いもしない人間にしか『●東綺譚(ぼくとうきたん)』を書くことはできないのではないか」といった一文には、思わずハッとさせられる。何より文章自体が魅力だが、その思考回路や感性にも大いに刺激される楽しい読書だ。「ひとりの人間がふっきれるまでの実録物」としても十分な手応えがある。

 ※ ●は「さんずい」に「墨」

読売新聞
2021年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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