出所したら“また人を殺す”男。 戦慄のハード・ルポルタージュ

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家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像

『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』

著者
インベ カヲリ★ [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041109434
発売日
2021/09/29
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

出所したら“また人を殺す”男。 戦慄のハード・ルポルタージュ

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 刑務所に入りたいという動機で3人を殺傷し、無期懲役の判決が出た法廷で万歳三唱をした男。公判では反省するどころか、出所したら「また人を殺します」と放言。遺族や傷ついた人たちの気持ちを土足で踏みにじった。更生する可能性は皆無。そういう無差別殺人犯と意思疎通できる言葉は、あるのか無いのか。無いなら無いで、私たちと彼はどこがどう違っているのだろうか。

〈ひたすら話を聞いていった先に何が見えてくるのか。ただただ聞き役に徹すると、人殺しは何を語りだすのか〉

 理解不能に思える人間と対話を試みた約3年間を綴った超ハードなルポルタージュ。やり取りした手紙に記された問答や、拘置所での面会時の対話が紹介される。当初、男はまったく本音を明かさない。著者は〈もしかすると、踏み込むだけの「心」などないのかもしれない〉と迷いながら、文通や面会を重ねる。

 興味深いのは、男が拘置所に差し入れてほしいと依頼する本のリストだ。古典、歴史書、哲学書……難しい本ばかり。常人離れした記憶力を持つ男はおそろしく博識で、自分の考えに絶対的な自信を持っている。問いは巧みにはぐらかされる。だがガードが崩れる瞬間が訪れる。見え隠れする本音。男が固執していた「岡崎の家」とは……。

 著者は日本写真協会賞新人賞などを受けた気鋭の写真家。撮影する人物をインタビューし、対話から着想を得て場面を生み出す独自のスタイルで作品制作を続けている。現代人の心を反映させた表現には、ジャーナリスティックな魅力がある。この一作で、ノンフィクション作家としての評価も飛躍的に高まるだろう。

 悲惨極まりない特異な事件だが、誰の心にも闇はひそんでいる。家族不適応殺という奇妙なタイトルが、読後には、これ以上ないほど的確に現代社会の暗部を指し示す言葉に思えてきた。

新潮社 週刊新潮
2021年10月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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