『従順さのどこがいけないのか』
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空気を読むことの根本的な危険
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
空気を読むとか同調圧力とかいう言葉が一般的になったのはいつからだろう。わたしの子ども時代(昭和40年代ぐらい)には、政策を批判することや、虐げられている者に目を向けることが大事だとされていたように思う。でも現在のわれわれは「多数派に従順であれ」「批判はするな、自分の都合を言い立てるな」という圧力に、常にさらされている。
この状況は息ぐるしいだけではなくて、もっと根本的な危険をはらんでいる。そのことを非常にテンポよくあざやかに説明しているのが、将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』だ。「忠誠心を持つ」ことと「従順である」ことはイコールではないこと(ある考え方なり組織なりに忠誠心を抱いているほど、批判の目を持ち、不正や間違いを指摘する必要がある。つまり、「立て直し」によって大事な価値を守り育てるということですね)。ある場所で良好な秩序が保たれているように見えても、それは各々が自分の身を守ることに手一杯なだけで、不正な状態が見逃されているだけである場合があること。こうした例をあげながら、目先の安寧を守るあまりに巨大な悲劇へと突き進んでいく可能性をリアルに示してくれる。
ズルをしてでも「勝ち」を拾わなければならない社会、負け組が生きていかれない社会がいかに衰退するかは、あたりを見回せば明らかだ。不正な「勝ち」を見逃すと、全員が弱っていくのである。