『言語学バーリ・トゥード Round1 AI は「絶対に押すなよ」を理解できるか』川添愛著(東京大学出版会)

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

言語学バーリ・トゥード

『言語学バーリ・トゥード』

著者
川添 愛 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
語学/語学総記
ISBN
9784130841016
発売日
2021/07/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『言語学バーリ・トゥード Round1 AI は「絶対に押すなよ」を理解できるか』川添愛著(東京大学出版会)

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

「伝える難しさ」と格闘

 著者はことばの伝わらなさにマジで悩む人です。SNSでものが言いにくいこと、会話で相手へのリアクションに困ることなど、伝える難しさについての話が本書にはよく出てきます。それぞれの問題について、著者は言語学の知見に基づいた説明や解決策を示します。

 と言うと硬い本かと思われそうですが(楽しい装丁を見ればそれはないか)、取り上げられる話題はプロレスからドラマ、映画に漫画、ゲーム、チェコ語に至るまで、とても多彩です。読者は気楽な雑談の場にいる気分になります。著者のプロレス愛はとりわけ強く、この書名もプロレス用語から採ったのだそうです。

 著者はつねに具体的な例を通じてことばを考えます。たとえば、リングに殴り込んだラッシャー木村がマイクに向かって発した「こんばんは」の一言。これがなぜ珍事件とされているのか。挨拶というものが交わされる状況についての考察から、違和感の正体に迫ります。

 あるいは、ユーミンの曲の題名「恋人がサンタクロース」を「恋人は……」と覚えていたというエピソード。なぜこの題名は「が」になっているのか。「は」と「が」の違いという、文法上の大問題を整理しつつ、分かりやすく説明していくお手並みは見事です。

 一般に、言語を論じる本はモノトーンになりがちです。言語理論という抽象的な世界に向かって行こうとするからです。一方、著者はひたすら具体的な世界に立脚して、「ことばを伝える難しさ」というリアルな問題を解決しようとあがきます。ことばと格闘するレスラーのようだと感じるのは深読みでしょうか。

 最後に余談をひとつ。記憶法の話の中で出てきた「壬申の乱」の年の語呂合わせですが、私は高校時代、「むねに(672)ジーンと来るジーン申の乱」と覚えていました。いまだに記憶しているので、悪くない覚え方だと思うのですが、いかがでしょうか。

読売新聞
2021年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加