『郊外の記憶 文学とともに東京の縁を歩く』鈴木智之著(青弓社)

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郊外の記憶

『郊外の記憶』

著者
鈴木 智之 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784787234957
発売日
2021/09/07
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

『郊外の記憶 文学とともに東京の縁を歩く』鈴木智之著(青弓社)

[レビュアー] 尾崎真理子(早稲田大学教授/読売新聞調査研究本部客員研究員)

 話題作の舞台を訪ねる“聖地巡礼”の一方で、都市周辺の町歩きブームも地味に長く続く。何を求めて人は歩くのか。

 文化社会学者の著者は、その意味を探しつつ「過去にこだわらず、万事を更新する」(加藤周一)東京の周縁を巡ってきた。そもそも地方出身者の多い大都市郊外の住人は不安なのだ。どんな場所の上に自分たちは生きているのか、歴史的、地理的にたどり直したい。そんな郊外の記憶の再発見が、文学作品を媒体とすれば可能になるのではないか――。本著はそれを足を使って試みる。

 登場するのは、多和田葉子『犬婿入り』に描かれた農村と団地、大学、縄文人の住居跡までが混在している、国立市とその周辺。あるいは町田市と思われる三浦しをん「まほろ駅前」シリーズ。同じ多摩地区を流れる野川が重要な役割を果たす大岡昇平『武蔵野夫人』、古井由吉、長野まゆみの小説など。

 これらの作者もまた、過去を失うことから始まった郊外に暮らし、集合的記憶を求めて小説を書いてきたのかもしれない。新しい文学散歩に親近感を持った。

読売新聞
2021年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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