『人間愚痴大全』
- 著者
- 福田 智弘 [著]
- 出版社
- 小学館集英社プロダクション
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784796878609
- 発売日
- 2021/10/21
- 価格
- 2,200円(税込)
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あの文豪も、武将も、大統領も……みんな愚痴ばかり言っていた!? あの有名人のイメージを覆す、驚きの「愚痴」とは?
[文] 福田智弘(歴史・文学研究家)
愚痴をこぼすのは、やっぱりよくない……?
渋沢栄一から太宰治、豊臣秀吉にナイチンゲールまで、古今東西の著名人が、人生の苦境で言わずにはいられなかった愚痴150篇を収録した『人間愚痴大全』が話題だ。
発売を記念して、著者である歴史・文学研究家の福田智弘氏に、執筆するなかで特に印象に残っている愚痴から不平不満ばかりの本書の効用まで、話をうかがった。
偉人たちが身近に感じられる本
――『人間愚痴大全』……その名の通り、たくさんの愚痴が登場しますね。
福田:そうですね。文豪から、政治家、発明家、戦国武将に、歌舞伎役者……。
一番古いのは、ソクラテスかな?(笑)。日本人だと蘇我蝦夷、いや、聖徳太子のほうが古いですね。実に二千数百年に及ぶ「愚痴の歴史」の集大成、という感じです。
――150もの「愚痴」を集めてみて、いかがでしたか?
福田:実におもしろかったですね。
「愚痴」って、いわば「本音のかたまり」だと思うんです。
小説家なら小説、政治家なら演説の中で語られる言葉っていうのは、いわば、「公式発言」で、中には名言もあるのですが、どこか「造られた」感がある。
その点、「愚痴」や「泣き言」「不平・不満」の言葉には、語った人の生の人間性が如実に表れている。従来のイメージとはまったく違う人間像が現れてきて、まったく違う見え方になります。
――印象に残っている愚痴はありますか?
福田:どれもこれも印象深いのですが、その中でも特に挙げるなら、普段、私たちが抱いている有名人のイメージと、ギャップのある愚痴がおもしろいですね。
天才音楽家のシューベルトが、うまくピアノが弾けなくて
「こんな曲は悪魔に演奏させろ!」
と逆ギレしたり……。
純朴な青年のイメージのある石川啄木が
「女のことが頭から離れないよぉ」
などと大真面目に語っていたり……、
海や太陽が似合う、健康的なイメージのヘミングウェイが
「こんな若さで、まだ父親にはなりたくない」
と、愚痴っていたり……、
あの幕末の快男子、坂本龍馬が
「あいつはなんも考えてない人間だ」
なんて、人の悪口を言っていたり……
その他にも、エディソンが「自分の人生は苦境の連続だ」と新入社員に語ったこととか、あの天才科学者ニュートンが、株で大損して思わず漏らした愚痴の言葉なんかも印象に残っていますね。
こういう愚痴を読んでいると、今まで遠い世界の人間のように思えていた「偉人」たちが、急に身近に感じるようになってきます。
どんな偉人でも、私たちと同じように悩んだり、愚痴ったりして生きていたわけです。「立派なだけじゃない」なんて思えてくるんですね。
30代、40代に多い愚痴とは?
――年代順に愚痴が並んでいるのがおもしろいですね。
福田:そうですね。
実は、カエサル(シーザー)も、夏目漱石も、同じ30歳前後の時に
「俺はまだなにもしていない。自分の人生、これでよいのか?」
って、悩んだりしているんですよ。
でもって、40代になると、白髪頭を気にしている人が多くなったりして……(笑)
なんだか、こういう「世代特有の悩み」っていうのは、偉人たちも、私たち一般の人間も、変わりないんじゃないかなって思えてきますね。
――もうひとつ、この本では、単に愚痴を紹介しているだけでなく、愚痴をこぼした場面やそこに至るまでの経緯や生い立ちについて、コラムというか、ひとつのストーリーとして語られています。それが、有名人の今まで決して語られることのなかった部分に光が当たっていて、驚きの連続です。
福田:ありがとうございます。
この本の特長としては、「愚痴」の数が150もあること、そして、おっしゃるように、それぞれがひとつのストーリーになっていることが挙げられると思います。
それゆえ、各人生を150篇ものコラムとして書き続けるのは、結構な労力がかかっておりまして……執筆中は、かなり……地獄でした。
――最後に「愚痴」が出たところで(笑)。読者の方にメッセージをお願いします。
福田:これだけたくさんの不平不満を集めながらも、一つとして同じものはありません。
まずは、あまり深く考えずに、有名人たちの愚痴の数々を、楽しみながら読んでいただければいいな、と思っています。
そのうちに、「あの偉人だって、こんな愚痴を言っていたんだから、自分だって、愚痴くらい言ったっていいんだ!」というふうに、読んだ人の心が軽くなるようなことがあれば、本当にうれしいですし、素敵なことだと思います。
この本を1冊読み終えた時には、愚痴を言っている有名人の中から、きっと何人かお気に入りの人が見つかるのではないかと思いますよ。