<東北の本棚>愚直に生きる心の叫び

レビュー

8
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震えたのは

『震えたのは』

著者
岩崎航 [著]
出版社
ナナロク社
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784867320044
発売日
2021/06/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>愚直に生きる心の叫び

[レビュアー] 河北新報

 <持病への 理解を周囲に求めながら その一方で 老いからは目をそらすのか 虫がいいことだ>。美辞麗句を連ねた耳に優しいありきたりな詩集ではない。喜び、悲しみ、悩みながら、日常を愚直に生きる心の叫びだ。

 1976年仙台市生まれの著者は、3歳で筋ジストロフィーを発症。人工呼吸器を付け、胃ろうで栄養を取る生活を送る。本書は文芸雑誌「三田文学」に掲載された作品も含め、2006年から昨年にかけて編んだ5行詩を収録した。

 著者は17歳の時に絶望感から死を考えたこともあるという。病を含めてありのままの姿を受け入れ生きるひた向きさと、強い覚悟に心を打たれる。<経管栄養や呼吸器を 使うのは ひとつの喪失で それ以上の生きる力を取り戻す 活の手段なのだ>
 表現に打算やうそはない。直球の言葉が痛いほど突き刺さる。<汚れがないとか 純真だとかいう人よ ひとさまに 勝手に羽根を つけないでくれ!>。生きるには周囲を気遣い、自分を押し殺すことも多いと察する。「いい人」でいなければいけない息苦しさを痛烈に訴える。

 病床の景色をユーモラスに切り抜く感受性と着眼点は著者ならではだ。<カテーテルが 蛇のようにも思えたけれど やっぱり彼女は 働きもので 人の命の守り神なんだ>。自由を奪い、憎たらしくも見えるカテーテルは、命をつなぐいとおしい存在だと感謝を込める。

 <昏(くら)い谷底を前に 震えたのは 生きているから 温かい血が 通っているから>。不安や恐怖に心が揺さぶられるのは、人生を真剣に生きている証拠だと著者は言う。真っすぐで優しく、力強い言葉の数々が、背中を押してくれる。(江)
   ◇
 ナナロク社03(5749)4976=1870円。

河北新報
2021年10月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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