「総合商社のリアル」を知る著者が、血と汗と涙にまみれた人間ドラマ『総合勝者 特命班』に込めた想いとは

エッセイ

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総合商社 特命班

『総合商社 特命班』

著者
波多野 聖 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758444354
発売日
2021/09/15
価格
770円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

波多野聖『総合勝者 特命班』刊行記念小特集

[レビュアー] 波多野聖(作家)

令和の現在も就活生から高い人気を誇る「総合商社」。そんな総合商社を舞台に、業界のリアルを描く企業小説を得意とする作家・波多野聖氏が、血と汗と涙にまみれた人間ドラマ『総合勝者 特命班』を上梓した。
長年ファンドマネージャーとして総合商社を見てきた著者が描く、総合商社の、そして日本の、過去・現在・未来とは……。

 ***

私が大学生だった一九八〇年、NHKで『ザ・商社』というドラマが放映された。

演出はレジェンド和田勉、安宅産業をモデルにした総合商社・江坂産業を中心にしてのドラマは石油ビジネスを巡り国際的スケールでダイナミックに展開する。主人公の江坂アメリカ社長を山崎努、その恋人のピアニストを夏目雅子、ピアニストのパトロンで江坂産業の社主にして東洋陶磁器の世界的コレクターを十三代片岡仁左衛門(気品ある男の色気が最高だった)が演じるという大型ドラマに大学生の私は引き込まれた。

当時、商社マンとは成長を続ける日本株式会社の代表選手として七つの海を股にかける輝かしい存在だった。ドラマの大事な場面での山崎努の英語の台詞は今も忘れられない。

Ezaka is a Sogo-Shosha, we can supply anything!

“総合商社”というのはそのまま世界で通じる日本語なのかと大学生の私は体が熱くなった。あれから……四十年以上が経った。

日本経済は一九八〇年代にバブル期を迎え「ジャパンアズナンバーワン」と持ち上げられた。そして空前の花見酒に酔った後、高転びに転んで長期低迷に陥り今も脱していない。

その間、総合商社は何をして来たのだろうか? その本当を知りたいと思ったのが今回『総合商社 特命班』を執筆する動機だった。

私は総合商社が表向きに「何をして来たか」は知っている。数千億円の資金を運用するファンドマネージャーとしてプロフェッショナルの観点から総合商社を見て来たからだ。その事業や財務を分析し経営層とミーティングを行って商社への投資を判断する作業を数えきれないほどした。しかし総合商社の本当の姿を掴めたという認識を持ったことはなかった。

それほどwe can supply anything!は捉えづらいのだ。

ではそれを小説で掴んでやろうと思った。

真実はフィクションでしか描けない。  

私は大勢の商社マンやアナリストに取材を行っていった。そこで得た生の商社像にはファンドマネージャーとして情報で捉えていたものとは違う本当があった。まさに血と汗と涙があった。人間がいた。現実のドラマはそれらが満載だったのだ。

総合商社は日本だけの企業形態だ。

そして今も日本株式会社の代表だ。we can supply anything!とはそういうことだ。つまり総合商社は低迷を続ける日本経済をも代表する存在と云えるのだ。私はそこも掘り下げていった。

『総合商社 特命班』では総合商社の、そして日本の、過去・現在・未来を描いた。

企業小説としての自信作でありどこまでもリアルな面白さを追求したつもりだ。多くの読者に満足して頂ける作品に仕上がったと自負している。

そして一番読んで貰いたいのは現役ビジネスマンたちだ。この小説では日本企業が今、目の前にしているリアルな、越えなければならないものを描いたからだ。読んで頂き、そこからの希望を見出して貰いたいからだ。

協力:角川春樹事務所

角川春樹事務所 ランティエ
2021年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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