『女性皇族の結婚とは何か』
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「眞子さま」ご結婚騒動の前提としていま読みたい「皇室」の大いなる変貌
[レビュアー] 黒鉄ヒロシ(漫画家)
歴史の領域に侵入する入口の専らは、ヒトか事件のどちらか、もしくは両方だろう。
譬えば、織田信長から歴史の穴に入ったとする。そして、信長の身辺の“ヒトと事件”として正親町天皇に行き着くとする。
ところが、学者はさて措き、くれぐれも歴史穴の冒険は“信長探し”にあるから、如何程に穴深くに侵入しようとも、「天皇制の全体」にまで到達する例しは少なかろう。
譬えを逆にして、正親町天皇から侵入して、信長が出現したとする。やはり、“歴史脳”は正親町天皇の周辺に虫メガネを当て続けて、天皇制の全体に対する視座は欠落してしまう――。
さて、本書のタイトル『女性皇族の結婚とは何か』を見た瞬間、私は「女性」と「結婚」と付く為に範囲は――と考えたのだが、予想は良い意味で、外れた。タイトルから、「ああ、あの騒動のコト――かな?」と早トチリして本書を手放したとすれば、全く損してしまう。
本書の面白さ、興味深さは、まずもって、その構成にある。
〈日本史〉を一本の竹と考えると、それぞれの節目が、それぞれ時代の転換期――と云うことになる。
通常の世代交替なら、節目の間隔は一律にもなろうが、意志統一など不可能なヒトの世であれば、ある処は太かったり細かったり、或いは色が濃かったり薄かったり――。
この、寸法と濃淡の差に踏み込むにあたって本書は一本の松明となる。著者がテーマに掲げたのは皇族の中でも「女性」であり、「結婚」であった。ここまで縛りを厳しくしてしまうと、通常なら窮屈に陥り、節ぶしのスキャンダラスな方向へと流れそうなものなのに、そうはならず、歴史の節の成分の分析に遺漏なく、見事な「竹」の全景に繋げて見せるのは著者の筆力――と云う他はない。
記述に容赦せず、媚びるところなく、それでいて品を損なわない本が、小生の考える良い本であるが、タブーの多き領域に踏み込んだ勇気にも舌を巻く。
重ねて私見であるが、「女は自然物、男は人工物」なる見立てを持っていて、この物差しに狂いなくば、人工物たる天皇を、自然物たる皇后が包み補佐する“カタチ”が、我国の竹が長く屹立してこられた秘訣だったのではなかろうか。
聖武天皇然り、あの天皇、この天皇然り――と考えると、本書によって著者の見えざる矢は、先人が見落としてきた角度から“大和竹”の真ん中を射抜いたのだと思われる。