『出禁の男 テリー伊藤伝』本橋信宏著(イースト・プレス)
[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)
『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』『ねるとん紅鯨団』『浅草橋ヤング洋品店』。数々の伝説的な番組を手がけたディレクター・テリー伊藤の評伝が刊行された。「天才」と呼ばれる伊藤がいかに型破りな人物か、数々の証言とともにその魅力が綴(つづ)られる。
型破りであるためには、たしかな美意識が必要だ。
本書の中でテリー伊藤は、アントニオ猪木よりジャイアント馬場が好きだと語っている。世間は様式美を否定する猪木に新しさを感じ、そちらに移ったが、伊藤は「馬場の美しいプロレス」が好きだった、と。
様式美が否定される時代に、伊藤は泥まみれでもがく人間の姿に美しさを見出(みいだ)す。その一例が15章に綴られる「江頭グランブルー」だ。江頭2:50の水中無呼吸記録の挑戦を追った企画のタイトルは、リュック・ベッソン監督の映画『グラン・ブルー』に由来する。
リュック・ベッソン監督の映像美と、顔を青紫に染めて、死に場所を定めたように潜水を続ける江頭の姿は雲泥の差がある。それでもそこに、ある美しさがある。その美しさとは、いわば人間讃歌(さんか)だ。