初挑戦で鮮烈デビュー『北緯43度のコールドケース』
[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)
クローズドサークルで起きた密室殺人と武侠小説が融合した本格ミステリーである桃野雑波(もものざつぱ)『老虎残夢(ろうこざんむ)』。そして札幌を舞台に未解決事件に挑む女性刑事を描いた本書。第六十七回江戸川乱歩賞は対照的な二作が同時受賞する運びになった。
札幌郊外の倉庫から、死後間もない女児の遺体が発見され、三歳の時に誘拐された島崎陽菜(しまざきひなた)であることが判明した。誘拐があったのは五年前のこと。犯人の男は札幌駅で身代金を奪い、逃走中にホームから転落し轢死(れきし)。人質の行方が不明のまま、事件は迷宮入りしていたのだ。成長した人質が発見されるという新たな展開により、共犯者の存在が浮かび上がる。秘かに陽菜を育てていた理由は、そしていまになってなぜ彼女を殺したのか。事件は世間の注目を浴びるが、またしても捜査は難航するのだった。
大学院で経営組織科学を学び、博士号を持つノンキャリアの女性刑事という主人公の設定には興味をひかれる。熱量が豊富でページをめくらせる力のある作品だが、ギクシャクした印象も受ける。誘拐の構図や、ある人物が置かれた状況など感心する点も多いのだが、選評で縷々(るる)指摘されていたように、ヒロインのトラウマや家族問題、警察の機密漏洩問題など、あれこれと詰め込みすぎたためだろう。それらのエピソードがばらばらで終わることなく、ヒロインの行動原理となったり、プロットと有機的に結びついていくのではあるが。
経歴を見たらミステリーを書いたのも投稿したのも初めてというので驚いた。それでこれだけ読ませる作品を書き上げたのだから、これからが楽しみだ。テクニックは後からついてくる。シリーズ化も期待できるデビュー作となった。