『星新一の思想』
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『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』浅羽通明著
[レビュアー] 産経新聞社
機知に富んだショートショート(超短編小説)の名手として名高いSF作家と、思想という硬い言葉の取り合わせに、一見違和感を覚える。だが、博覧強記の評論家が星の実人生も参照しつつ全作品をつぶさに読めば、民主主義や人権を含めたあらゆる理想や正義を相対化し冷笑する不穏な「思想家」の顔が浮かび上がってくる。
文壇で不遇だった星が得たかったのは文学的評価などではなく、時代を超えた普遍性を持つ寓話(ぐうわ)の完成度、すなわち思想的評価ではないのか。大部の評伝でも未解明だった星の思想に、作品の精読によって肉薄する。これぞ評論のおもしろさ。(筑摩選書・2200円)