攻略困難な「無理ゲー社会」 生き抜くための最善策は?

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無理ゲー社会

『無理ゲー社会』

著者
橘, 玲, 1959-
出版社
小学館
ISBN
9784098254002
価格
924円(税込)

書籍情報:openBD

攻略困難な「無理ゲー社会」 生き抜くための最善策は?

[レビュアー] 廣末登(社会学者)

 若いころ、夢に続く様々な道が、眼前に延びているように思えた。しかし、一歩踏み込んでみると、その道は隘路となるか断崖に阻まれる。道の選択を悔い、労力と時間が失われたと嘆く。試行錯誤するも報われず、不完全燃焼して燻る夢の残骸が積み上がってゆく。

 人生というゲームに勝ち残れるのかと焦りが募る。焦燥はやがて絶望へと変質し、徐々に希望を蝕む。そして、自分が攻略困難なゲーム、「無理ゲー」に取り込まれたと確信する。

 本書は、見果てぬ夢を求めた末、絶望感に苛まれ、座り込む我々に対して助言する。

 運命は多くの人にとって「氏(遺伝)が半分、育ち(非共有環境)が半分」だ。人生において遺伝の影響は免れないから自由意志に制約はあるが、その不都合な事実を受け入れても、残りの半分は、ある程度自らの行動で変えられると。

 選択した道の先を、断崖が阻むとしたら、生来的な身体能力によっては登れない人もいる。身体能力は遺伝的要素であるから、道を変えるという選択を受け入れるべきだ。一方、隘路であれば、とりあえず進み続けるという選択もある。

 かつての社会であれば、進むべき道は生来的な属性で決まっていたし、仲間(中間共同体)と道中を共にした。良くも悪くも、そこに自由はなかった。しかし、リベラル(自由主義的)な現代社会では、道の選択も道中も自由である代わりに、成否は自己責任とされる。自由と自己責任はコインの表裏であり、生来的属性や他者に帰責することは出来ない。

 そうはいっても、リベラルな社会も悪い面ばかりではない。自分の選択で道を決め、自分のペースで道を歩める。歩み続けることで環境が変わるから、新たな能力が獲得できるかもしれない。孤独は辛いが、SNSで繋がることにより、有益な助言が得られる可能性もある。

 いま、個人だけでなく、社会も進むべき道の選択に迫られている。それが「進化論的リベラル」へと続く道だ。

 個人の遺伝的要素は変えられないし、社会も文化も変えることは容易ではない。自由競争において、遺伝と文化は甘受しなくてはならないが、環境は変えられる。マイペースで歩みながら、より良い社会について知恵を出し合うことが、無理ゲー社会を生き抜くための最善策ではなかろうか。

 無理ゲーに取り込まれ、辛いと感じた時には立ち止まり、本書を手に一休みするのも悪くない。

新潮社 週刊新潮
2021年11月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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