『ミカエルの鼓動』
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注目作家が挑む正統派医療サスペンス
第七回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したデビュー作『臨床真理』はオーソドックスな心理サスペンスだった。著者は正統派路線の人なのだろうなあと思ったが、それはとんだ見込み違いで、その後柚月裕子はリーガルミステリー、暴力団抗争をベースにした捜査小説、将棋ミステリーと次々に独自の題材を求めて活路を開いていった。
本書でも心臓外科医を主人公に、またまた現代医療という新たなテーマに取り組んでみせた。
西條泰己は北海道中央大学病院の心臓外科医。医療用ロボット「ミカエル」支援下手術の第一人者で、病院長補佐としてミカエル導入を指揮していた。北中大病院は道内最大の医療施設だったが、病院長の曽我部一夫はさらに全国屈指の医療機関へ押し上げようとしており、彼もそのためミカエル手術を推進していた。
だがその曽我部が、勇退する循環器第一外科科長の後任に真木一義の名前を挙げる。真木は腕の立つ心臓外科医だったが、一一年前、突然勤め先の病院をやめ、行方を絶っていた。曽我部の話では、ドイツで心臓外科医をやっているのだという。適任者がいるにもかかわらず、曽我部は何故真木を招こうとするのか。しかも真木は従来通りの施術者だった。
やがて真木の現場を目の当たりにした西條はその天才的なメスさばきに不安を覚えるが……。
医科大学を舞台にした医師の対立劇というと、このジャンルの先駆作、山崎豊子『白い巨塔』を想起するが、西條は冷たい一面はあるものの出世の鬼ではない。むしろミカエルで平等な医療を実現しようとしているのだが、真木の登場をきっかけにミカエル派の医師の醜聞やハイエナ記者の出現等、不審な出来事が相次ぎ、ついに難病の少年患者の治療をめぐって二人は激しい対立へと至る。
今回は、先の読めない展開と重厚な人間ドラマで医療の倫理を問うた、正統派の医療サスペンスなのだ。