『人体大全』
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ベストセラー作家が深掘りする身体という「内なる宇宙」
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
Covid-19パンデミックで一番変わった日常は「自分の体調を確認する」ことだ。熱があるか、匂いや味がわかるか、息は苦しくないか。
同時に外部から体調を監視されることにも抵抗がなくなった。商業施設では自動で体温が計測され、マスク着用が強要され体温計は各家庭に必備だ。いざという時のために血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターは品切れとなった。
こんな状況だからか身体の仕組みを知りたくなった。ウイルスはどうやって侵入するの? 病気ってどういう状態? 死ぬってどういうこと?
本書は生まれて死ぬまで自覚無く人体が行っている「奇跡のシステム」を二十三章に亘って解説していく。
だが医学系にありがちなお堅い内容ではない。何しろ著者は日本でもベストセラーとなった『人類が知っていることすべての短い歴史』(新潮文庫)のビル・ブライソン。宇宙や地球の謎解きを、今度は内なる宇宙である人体に当てはめ、素朴な疑問への回答から、徐々に深掘りしていく。
その疑問がユニークだ。第一章のタイトルは「ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた」。扉絵はずばり本人、ではなく蝋人形である。
生身のカンバーバッチ、いや人体を構築するには五十九種類の元素が必要となるという。その原材料の割合などから原価を計算すると日本円にして一七三〇万円ほど。だがそれらをギュギュッとまとめたところで人体が作れるわけではないことは明らかだ。細胞分裂やゲノム解析に話をつなげ、もしかしたらもっと良い人体が作れないかと疑問をなげかける。
本書執筆時はCovid-19パンデミックの前であった。だが感染症に関して書かれた第二十章では新しい伝染病に対する備えが薄いことを指摘しており、あとがきはイギリスの自宅で自粛生活中に書いていると告白している。未来は見当もつかないが、彼の下した結論は「次回はもっとしっかり備えておこう」。肝に銘じる。