「木」から辿(たど)る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る ローランド・エノス著

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「木」から辿る人類史

『「木」から辿る人類史』

著者
ローランド・エノス [著]/水谷 淳 [訳]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784140818749
発売日
2021/09/28
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

「木」から辿(たど)る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る ローランド・エノス著

[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)

◆社会と共にあった技術

 人類の文明史は、石器、青銅器、鉄器、石炭、石油などから語られるが、木こそが人類の発達に大きく貢献している。本書は木の技術を人類史とともに辿り、現代の木と人類の共生の在り方まで探るという社会史、技術史である。

 木は歴史上の文明でどんな意義を持つのだろうか。木は古い技術だが、鉄と同じ剛性や強度を持ち、より軽い。加工しやすく、長持ちだ。それが歴史上普遍的に重宝された理由である。

 原始時代から人類は、木製品の技術進化によって、狩猟採集から農耕社会へ発展させた。青銅器の鑿(のみ)で巨大な板張り船を作り出し、交易を盛んにし、紙によって知性を向上させた。

 時代の風雪の中を木は生き続け、人類の歴史を陰の立場から作ってきたことが、著者の手で社会の歩みとともに明らかになる。

 本書では知られざる木の長所が紹介され、教養書としての醍醐味(だいごみ)もある。

 ヨーロッパは石造りの教会が有名だが、多くの小さな教会では安価で軽量のために木造教会が多かったこと。一般の建物でも木が石よりも断熱材として優れ使われたこと、法隆寺五重塔の木造柱のように、地震でもエネルギーを吸収し衝撃に耐えられることなど、木の効用ははかりしれない。今世紀も同じで、二〇一二年にはオーストラリアで木の利点を生かして当時世界一の木造建築の集合住宅が造られている。木は今も多くの文明を支えていることが窺(うかが)える。

 深刻な課題も指摘される。人類があくなき利益を追い求め、伐採で世界各地から森林の姿が消えている。植林しても木は脆弱(ぜいじゃく)になり、土壌は痩せる。未来の自然環境のために人は木にどう向き合い、人間性を回復してゆくべきかも問われる。

 著者は人間が、木製品を手仕事で作ることで、自然と共に幸せを得ることができ、それが大切だと言う。木を一例として自然の事象と人類はどう生きてゆくか、大きな示唆を本書から得ることができるはずだ。

(水谷淳訳、NHK出版・2530円)

生物学者。英ハル大生物科学部の客員教授。霊長類の木の使用法などを探究。

◆もう1冊

黒瀧秀久著『森の日本史』(岩波ジュニア新書)。森との共生を考える。

中日新聞 東京新聞
2021年10月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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