AI捜査の時代はすぐそこだ! 現役AI研究者にして、直木賞候補の著者が送る警察小説

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SIP 超知能警察

『SIP 超知能警察』

著者
山之口洋 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575244502
発売日
2021/10/21
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

AI捜査の時代はすぐそこだ! 現役AI研究者にして、直木賞候補の著者が送る警察小説

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 山之口洋は、ジャンルの枠に囚われない作家である。第10回日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作『オルガニスト』からして、ミステリー・SF・青春小説など、さまざまなジャンルを融合させたファンタジーではないか。以後も、近未来SF・西洋史劇・歴史ファンタジー・青春小説など、多彩な作品を発表しているのだ。そんな作者の書いた警察小説は、当然のごとく予測不能のぶっ飛んだ内容であった。

 時は、2029年。警察庁科学警察研究所の情報科学第四研究所の室長・逆神崇は、AI捜査の普及と発展を提言していた。AI技術の進歩により変化する犯罪に、従来の警察の方法では、対処しきれないと確信しているからだ。そんな彼が率いる第四研究室に、警察庁の謎多き副長官・木戸亮一郎から特命が下った。調べる事件は、「日本海側各県における無戸籍児童増加の背景調査」「防衛省管内における連続不審事象の真相解明」「東北各県における『卒業アルバム』損壊多発事件の背景調査」の3つだ。

 バラバラな3つの事件に、いかなる関係があるのか。個性的な部下たちと共に動き、AIによる巨大な深層学習ネットワーク“VJ”のインターフェイス用人格ジーヴスを使って、調査を進める逆神。やがて彼らの前に、驚くべき謀略が現れるのだった。

 作者は東京大学工学部卒業後、人工知能関係の研究所に入所し、後に家電メーカーで研究開発に携わるという経歴を持つ。それだけにAI技術の進歩により、変化する社会への認識がリアルだ。特に、犯罪に対する考え方は、恐ろしいほどの説得力を持っている。この点をじっくりと書いた第1章を読むだけで、本書が従来の警察小説と、まったく違うことがよく分かるのだ。

 もちろんストーリーの吸引力も強い。徐々に明らかになる3つの事件の真相と、それが結びついたときに浮かび上がる巨大な陰謀には驚いた。また、防衛省勤務の女性のエピソードが何度か挿入され、読者は逆神たちよりも半歩先の知識を得ている。しかし、だからこそ謎が深まり、急き立てられるようにページを捲ってしまうのだ。

 さらに真相が明らかになっても、切迫した状況が続き、緊迫感が途切れることはない。第四研究所の女性と、事件の関係者のストリート・チルドレンとの交流もよかった。たくさんの注目ポイントが盛り込まれた、ニュータイプの警察小説なのである。

小説推理
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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