『ヒトはなぜ「がん」になるのか 進化が生んだ怪物 REBEL CELL』キャット・アーニー著(河出書房新社)

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ヒトはなぜ「がん」になるのか

『ヒトはなぜ「がん」になるのか』

著者
キャット・アーニー [著]/矢野 真千子 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784309291598
発売日
2021/08/25
価格
2,475円(税込)

書籍情報:openBD

『ヒトはなぜ「がん」になるのか 進化が生んだ怪物 REBEL CELL』キャット・アーニー著(河出書房新社)

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

長寿の「宿命」平易に解説

 どのようなライフスタイルであろうが、生きていると必ず遺伝子に傷がついていく。がんはその変異が細胞に蓄積することによって生じる病気である。だから、がんはある意味で長寿の宿命であり、いまや日本では2人に1人が一生の間に、がんと診断されるようになっている。

 がんについての本としては、いつも、米国の腫瘍内科医・ムカジーが書いた『がん―4000年の歴史―』(ハヤカワ文庫、『病の皇帝「がん」に挑む』から改題)を薦めてきた。ピューリッツァー賞受賞作で、古代エジプトから現代にいたるまで、がんの歴史がじつに活(い)き活きと描かれた不朽の名著といっていい1冊だ。

 しかし、その原著も出版されて10年がたつ。その間、がんについての研究はさらに進展した。そろそろ最新の知識についての本が欲しいと思っていたところに、ど真ん中ストライクの本が翻訳・出版された。遺伝子の変異により、正常な細胞が次第にがん細胞になっていく。副題に「進化が生んだ怪物」とあるように、それはまさしく細胞レベルでの「進化」なのだ。

 ケンブリッジ大学で発生遺伝学の博士号を取得し、英国のがん研究基金でサイエンスコミュニケーションに長年携わった女性ライター、キャット・アーニーが作者である。多彩なトピックスを取り上げて組み合わせ、高度な内容を誰にもわかるように平易に語っていくさまは、まるで手品を見せられているかのようだ。

 がんゲノムの話や、がんの「生態系」、慢性炎症の発がんに対する影響など、最新の研究内容を紹介するだけでなく、現時点で何がわかっていないかや、新薬の開発には限界があることなどを適切に指摘する書きぶりも素晴らしい。

 「がんの診断を告げられたとき、『わかりました。がんとのつき合い方なら知っています』とだれもが答えられるような」日が来ることを願って書かれたこの本、そう答えられるようになる第一歩として読んで欲しい。矢野真千子訳。

読売新聞
2021年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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