『ホロコースト 最年少生存者たち 100人の物語からたどるその後の生活 SURVIVORS』レベッカ・クリフォード著(柏書房)

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ホロコースト最年少生存者たち

『ホロコースト最年少生存者たち』

著者
レベッカ クリフォード [著]/山田 美明 [訳]/芝 健介 [監修]
出版社
柏書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784760153916
発売日
2021/08/26
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

『ホロコースト 最年少生存者たち 100人の物語からたどるその後の生活 SURVIVORS』レベッカ・クリフォード著(柏書房)

[レビュアー] 長田育恵(劇作家)

自己喪失 戦後も苦しみ

 二〇世紀の戦争で最も凄惨(せいさん)な闇を刻むナチス政権による絶滅政策。生き延びた子供たちは、その後どんな生涯を辿(たど)ったのだろうか。本作は終戦時に十歳以下だった幼年生存者たちを対象に、その実像を綿密に調査して纏(まと)め上げた貴重な一作だ。先行のホロコースト研究書籍群の中で触れられてこなかった深淵(しんえん)に光を届かせた。

 戦前のヨーロッパに一五〇万人いたユダヤ人の子供のうち、生き延びたのは十五万人だったという。命を繋(つな)いだ背景は潜伏・亡命・ゲットー・収容所など多岐にわたるが、体験の意味を理解することはもとより記憶さえ持たない子が殆(ほとん)どだった。さらに潜伏先や施設で偽名を得て育つうち、本名やユダヤ人であることさえも忘れてしまう。アイデンティティを喪失しながら、本人にも理由が分からないトラウマに苦しめられるなど人生にも深い影を落としている。

 だがそんな子供たちへの理解は、決して思いやりに満ちたものではなかった。戦後未(いま)だ発展途上にあった精神医学の分野からは、子供には回復力があるからと闇雲に放置されたり、成年の生存者たちからは、当時の記憶がない彼らを同じ「生き残り」とは見做(みな)せないとコミュニティから排除されたりもした。幼年生存者たちが成人し、アイデンティティの回復を求めても、帰属する場を得ることさえ容易ではなかった。

 百人以上の証言や文書史料を元に明かされた声に胸が詰まる。特に終戦時から数年間の混沌(こんとん)の中、子供たちは奇妙な世界にいたと物語る。養父母を実の親と思っていたのに、ある日、収容所から解放され、骨と皮だけになった女性が現れ恐怖を感じたなど。絶滅政策は終戦後も、親と子を更に引き裂き続けていた。

 本書は、幼年者でも戦争の当事者であり、生涯にわたる深刻な影響があると明示している。ホロコーストの実情を知る上で、幼年生存者たちの闘いは、むしろ終戦後から始まったのだと突きつけられる。山田美明訳。芝健介監修。

読売新聞
2021年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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