『社会主義の理念 現代化の試み DIE IDEE DES SOZIALISMUS』アクセル・ホネット著(法政大学出版局)

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社会主義の理念

『社会主義の理念』

著者
アクセル・ホネット [著]/日暮 雅夫 [訳]/三崎 和志 [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784588011320
発売日
2021/08/26
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

『社会主義の理念 現代化の試み DIE IDEE DES SOZIALISMUS』アクセル・ホネット著(法政大学出版局)

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

より良き未来へ 理論提示

 批判的社会理論の泰斗たる著者が、社会主義の初発の理念を抽出し、それを現代的なものへと作り替えようと試みる。

 著者が、初期社会主義のコアと見なすのは「社会的自由」の理念である。それは「個人の自由は他者との連帯的共同性の中において初めて実現できる」という自由観である。初期社会主義者たちが登場した当時、フランス革命が自由、平等、友愛の理念を顕揚したものの、資本主義的発展の中で、自由の意味が自己利益を追求する自由へと変質してしまっていた。初期社会主義者たちは、自由を社会的自由として実現することで、友愛と両立させようとしたのである。 

 しかし、資本主義経済に対する反発の中で、社会主義者たちは経済領域での改革を過度に強調するようになり、その結果、産業的生産の改革さえ行えば、自分たちの考える自由、平等、友愛の理念が達成されると考えてしまったのだ。その後の社会主義が、フランス革命の政治面での達成を重視せず、民主主義軽視の傾向を持ったのはこの理由による。

 では、社会主義の理念の現代化はどのようなものか。著者の提案の第一は、経済領域への過度な傾斜を脱却し、(婚姻関係、友情関係などの)個人的関係の領域、民主的意思形成の領域においても「社会的自由」の実現に向けた努力を行うことである。

 第二は、歴史的必然という観点から特定の経済モデル(社会主義経済)を正当化するのではなく、実験主義を採用すべきという主張である。そこでは、市場を活用し、市民たちが互いに補完しあう領域へと変えていく方法、市民社会が経済を組織・管理する方法、民主的法治国家によって経済を管理する方法があげられる。これらのどれが優れているかは、社会的実験で決せられるべきだという。

 社会主義というと「何をいまさら」という反応が聞こえてきそうだが、現代社会をより良いものにするという未来への希望は理論的支えを必要とする。そのための理論を提示する試みは大いに評価されるべきだ。日暮雅夫、三崎和志訳。

読売新聞
2021年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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