『女たちの壬申の乱』水谷千秋著(文春新書)

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女たちの壬申の乱

『女たちの壬申の乱』

著者
水谷 千秋 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166613243
発売日
2021/08/19
価格
935円(税込)

書籍情報:openBD

『女たちの壬申の乱』水谷千秋著(文春新書)

[レビュアー] 梅内美華子(歌人)

 「古代最大の内乱」といわれる壬申の乱(672年)は、天智天皇の長男で近江朝廷を継いだ大友皇子と、天智の弟・大海人皇子(天武天皇)との政権争いであった。本書は彼らの妃や娘である女性たちの足跡に焦点を当てる。

 大海人皇子は吉野隠遁(いんとん)の際に妃では●野(うの)皇女(持統天皇)のみを同行、その信頼度は律令国家草創期の片腕となったことからもわかる。彼女は他の妻が産んだ皇子たち、なかでも忍壁(おさかべ)・磯城(しき)の兄弟を政治的に冷遇した。自身の直系に皇位を継承させる構想か、嫉妬か。古代は数人の妃を持ち、子は母親の出自(身分)が重視された。著者は人物関係と妻の心理を絡ませて謎に迫る。

 『万葉集』前期の華、額田王は大海人に愛され十市(といち)皇女を産み、のちに天智の恋人となった。有名な三角関係だが、天智への挽歌(ばんか)数首について「宮廷歌人」と「妻」としての二面性を指摘し後宮の「静かな火花」を見出(いだ)すところはスリリングだ。権力闘争の影で愛と死に翻弄(ほんろう)された女性たち。『日本書紀』等の史書と『万葉集』との往還によって悲哀の声が聞こえてくる。

 (注)●は、へんが「盧」、つくりは「鳥」

読売新聞
2021年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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