『「思想をよむ、人をよむ、時代をよむ。書ほどやさしいものはない」』石川九楊著(ミネルヴァ書房)

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思想をよむ、人をよむ、時代をよむ。

『思想をよむ、人をよむ、時代をよむ。』

著者
石川 九楊 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784623090754
発売日
2021/09/21
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

『「思想をよむ、人をよむ、時代をよむ。書ほどやさしいものはない」』石川九楊著(ミネルヴァ書房)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

 ここに掲載したのは明の解縉(かいしん)の書である。「グルッ グルッ クルッ クルッ グルッ グルッ ターン」というリズミカルな筆触は、読むこととは何かを考えさせる。著者はここに、「読める」書とは異なる方向性を嗅ぎ取っている。それはこの筆触をたどることで感じられる、読みやすさである。同様のことが副島種臣の書にも述べられる。その「杜甫曲江対酒詩句」なる作品は、二十世紀の抽象絵画に相当しながらも、それより早い時期のものだと著者は言う。それもまた筆触を読むことに誘うのであって、文として判読することが問題ではない。

 その副島の「雨」の字の渦巻のような力強さはどうだろう。東日本大震災のすぐ後に、この字に触れながら、著者は「行き過ぎた商品と市場の水温上昇を冷やす文化の力はどんな雨を降らし、どんな『雨』字を生むのだろうか?」と問うていた。「読める」書に象徴されるような文化の消費ではなく、書の筆触は人をその身体丸ごと別の時空に招じ入れ変容させるのだ。

読売新聞
2021年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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