<東北の本棚>従軍記者の足跡たどる

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清六の戦争

『清六の戦争』

著者
伊藤 絵理子 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784620326863
発売日
2021/06/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>従軍記者の足跡たどる

[レビュアー] 河北新報

 東京日日新聞(現毎日新聞)の従軍記者として日中戦争と太平洋戦争を取材し、フィリピンで戦病死した伊藤清六(1907~45年)。遠縁に当たる毎日新聞の記者が現地取材も交え、その足跡を丹念にたどる。戦時下の新聞記者の姿を通し、戦争責任を考えた労作だ。

 伊藤は奥州市の農家出身。両親を早くに亡くし、苦学を重ねて宇都宮高等農林学校に進んだ。卒業後、記者として農政などを担当する。執筆した記事や生家に残された手紙や資料からは、農村振興への強い願いや家族を思いやる誠実な人柄が浮かぶ。

 とはいえ、反戦を訴えたり、政府による言論統制や新聞社の自主規制に異議を唱えたりした「ヒーロー」ではない。「戦争という大きな流れ」にあらがえなかった、大多数の記者の一人。筆者は当時の紙面や資料を通し、日中戦争以降、検閲が強化されていく様子を紹介する。記者たちの責任の重さを指摘した上で、「誰もが『清六』になりうることに身震いする」と率直につづる。

 太平洋戦争で日本占領下のフィリピンに派遣された伊藤は、首都マニラで旧日本軍管理の日本語新聞の発行に携わる。戦況悪化に伴い、マニラ北東のイポに脱出。合流先の兵団でガリ版刷りの新聞「神州毎日」を記者仲間と出した。戦況のほか、娯楽欄も充実させて人気を集めたという。イポ陥落後、伊藤は38歳で餓死する。

 最期の地で胸に抱えたのは無念か。それとも諦念か。伊藤に自身を重ね、戦争との向き合い方に悩み、葛藤する著者の姿に共感した。それだけに教育と貧困解消の関係性を取り上げたエピローグは、やや唐突な印象を受けた。

 本書は毎日新聞が2020年7、8月に掲載した連載に加筆した。連載は新聞労連の第15回疋田桂一郎賞などを受賞した。(和)
   ◇
 毎日新聞出版03(6265)6941=1650円。

河北新報
2021年11月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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