『問題の女 本荘幽蘭伝』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
その女、破天荒という言葉すら物足りない生涯
[レビュアー] 都築響一(編集者)
「新聞記者、保険外交員、ホテルオーナー、女優、辻占いの豆売り、日本語教師、活動弁士、講談師、浪花節語り……転職50回以上、50人近い夫と120人以上の交際相手を持ち……」というオビにムムッと思わないひとはいないだろう。
明治12年生まれ、昭和39年頃には亡くなっていた(没年不明)、稀代の怪人物が本荘幽蘭(ほんじょう・ゆうらん)。破天荒という言葉すら物足りない生涯を、年代順に60余りの章で追いかけた一冊。「婦人記者となる」「男たちをちぎっては投げる」「女探偵を志願す」など、ひとつずつのエピソードが数ページの短い章で続き、それだけで350ページ近いボリュームになっている。
『問題の女』という的確な書名は大正時代に新聞などでスキャンダラスに書き立てられた際の呼称から採られたそう。あとがきに「本書は、こんな女性がいたというそれだけの本ではある」と書かれているとおり、幽蘭の生きざまに魅せられた著者が、こちらも女探偵のように埋もれた資料をかきわけ、探し求めてまとめた調査報告書のおもむき。巻末には幽蘭が関係した男性の名を記して持ち歩いたという『錦蘭帳』の推測再現まで載っているが、「こういう生きかたが良い、悪い」といった判断も、現代から見おろした解釈もない。その潔さが幽蘭という人物の存在感を浮きあがらせている。
男から男へ、職から職へ、日本中はもとより中国大陸、朝鮮半島、東南アジアまで流れていった彼女の一生が哀れではなく、むしろ爽快な冒険の生涯に思えてしまうのは、本荘幽蘭のキャラクターと同時に、彼女を追いかけた平山亜佐子さんの尾行眼に宿るあたたかさの賜物でもある。
他人の余計な忠告に耳を貸さずに走っていけば、こんなに楽しい人生が待っている(かもしれない)と教えてくれるようで、SNS相互監視社会で萎縮している若き女性たちへの福音となるはず!