『解きたくなる数学』
- 著者
- 佐藤, 雅彦, 1954- /大島, 遼, 1986- /廣瀬, 隼也, 1987-
- 出版社
- 岩波書店
- ISBN
- 9784000063395
- 価格
- 1,980円(税込)
書籍情報:openBD
記号や用語で躓かせない ひと目で“わかる”数学の愉しさ
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
「そもそも問題に書かれた文章の意味がわからない」。私自身がまさにそうなのだが、「数学アレルギー」を公言している人間は老若男女問わず多い。出てくる記号や用語のよそよそしさに心が挫け、扉の向こうを覗く前に首を竦めてしまうのだ。
「でも、数学のほんとうの愉しさは、誰にでも開かれているものなんですよ」。そう熱く語るのは、目下SNSで大きな反響を呼んでいる『解きたくなる数学』(佐藤雅彦、大島遼、廣瀬隼也=著)の担当編集者。この本、9月下旬に発売されるや、たった一日で重版が決定し、現在4刷5万部。版を重ねるごとに部数が倍々に伸びてゆくような頼もしい勢いを見せている。
表紙にあるのはアナログなつくりの上皿秤の写真。ページを繰ってみると、上皿に載せられた無数のナットが、隣のページではひとつだけ指でつまみ出されている。秤の針が指し示す数字は「360g」から「357g」に。問題文はただひと言、「ナットは全部で何個あるか」。ああ、これならわかる! 解きたくなる!
「数学は記号や用語といった約束事が多い。だから問題文の読解の段階で挫折してしまう人が多いのですが、この本では徹底的に文章を切り詰め、ビジュアルだけで意図が伝わるよう工夫を凝らしました」(同)
他にも登場するのは、最近よく見かける正方形のチョコレートだったり、どこか懐かしい角のまるいバスの車窓が開いている景色だったり(ちなみにどちらも面積の問題)。見開きいっぱいに無数の人の後頭部が写っている写真には度肝を抜かれた。実はこれ、大雪でダイヤが乱れ、渋谷駅に通勤客が溢れていたときの写真。そこへ「東京に住む人の中で、髪の毛の本数がまったく同じ人が少なくとも1組いることを証明しなさい」(!)との問題文が付されているのだから面白い。
「数学者って、とにかく“たくさん例を考える”ということを繰り返していらっしゃるようなんですよ。つまり抽象と具象のあいだを何度も行ったり来たりするうちに、ものの見え方や考え方の回路がひらけてくる。“わかる”ということのきらめきもそこにあるんじゃないかと思っています」(同)