『消えた「四島返還」安倍政権 日ロ交渉2800日を追う 北海道新聞社編』(北海道新聞社)/『北方領土交渉史』鈴木美勝著 (ちくま新書)

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消えた「四島返還」 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う

『消えた「四島返還」 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う』

著者
北海道新聞社 [編集]
出版社
北海道新聞社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784867210383
発売日
2021/09/09
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

北方領土交渉史

『北方領土交渉史』

著者
鈴木 美勝 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480074188
発売日
2021/09/09
価格
1,034円(税込)

書籍情報:openBD

『消えた「四島返還」安倍政権 日ロ交渉2800日を追う 北海道新聞社編』(北海道新聞社)/『北方領土交渉史』鈴木美勝著 (ちくま新書)

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

対露外交「後退」の実像

 日ソ国交回復から65年が過ぎた。北方領土問題は相変わらず停滞したまま。安倍晋三元首相は領土問題解決に意欲を燃やしプーチン大統領と27回にものぼる首脳会談を行った。これは、ソ連時代を含む日露関係史において特筆すべき外交だった。しかし、その成果というと領土問題は何も進展しなかったばかりか、後退したとの厳しい評価もある。

 北海道新聞は、全国紙に引けを取らない取材力を発揮して、安倍内閣の対露交渉の実像を浮き彫りにする。領土問題と向き合う道民に接する地元紙記者の目には、いつの間にか四島一括返還はもちろん、二島先行返還+αでもなく、ただの二島返還に後退したと映った。つまり日露交渉は失敗したのだと。

 なぜ失敗してしまったのか? 『北方領土交渉史』は、日露交渉の歴史を遡ることで領土問題が抱える宿痾(しゅくあ)と安倍外交失敗の必然を明らかにする。国交を回復した鳩山一郎内閣から安倍内閣にいたるまで、北方領土問題をめぐる日露交渉は、政(自民党)と官(外務省)の連携がちぐはぐ、そこに米国が絡んで常に暗礁に乗り上げてきた。タイミングがすべての外交で、時勢に即応できずロシアに振り回される日本の姿が浮き彫りになる。

 両書とも安倍対露交渉のターニングポイントは、2018年11月のシンガポール会談であって、そこで四島返還論から二島返還論へ事実上の転換を図ったと見る。そして、日露交渉において主導的な役割を担った経産省系官邸官僚に対する評価は厳しい。その一方で外務省に対してはやや同情的。しかし、外務省の四島一括返還へのこだわりが日露交渉停滞の一因であったことも事実だ。

 安倍内閣の対露交渉はいかなるもので、何が問題であったのか。異なる立場からの反論も含めて、さまざまな考えが公にされるなかで、歴史的評価は定まっていく。ただし、何も語らず、何も記録に残さずでは、一方的な評価がそのまま歴史となってしまう。この交渉に関わったすべての人たちは、このことを肝に銘じて欲しい。

読売新聞
2021年11月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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