『 Humankind 希望の歴史 上・下』ルトガー・ブレグマン著(文芸春秋)

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Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章

『Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章』

著者
ルトガー・ブレグマン [著]/野中 香方子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163914077
発売日
2021/07/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章

『Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章』

著者
ルトガー・ブレグマン [著]/野中 香方子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163914084
発売日
2021/07/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『 Humankind 希望の歴史 上・下』ルトガー・ブレグマン著(文芸春秋)

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

性悪説の「常識」覆す

 これまで「常識」と思い込んでいたことが、ガラガラと音をたてて崩れていくような気がした。通常そのような時は、困惑や不快感があるものだ。しかし、この本の衝撃は真逆だった。

 命じられれば容易に残酷になってしまうことを示した「アイヒマン実験」。看守役の学生が囚人役の学生をいじめ抜いた「スタンフォード監獄実験」。無人島に流れ着いた少年たちが敵対し次第に残虐になっていく様を描いたゴールディングの小説「蠅(はえ)の王」など、人間の本性は悪であるという言説は昔から後を絶たない。

 それは間違いだ。二つの有名な心理学実験は誤った解釈がなされている。「蠅の王」と同じような漂流が実際におこった時、少年たちは協力して仲良く暮らし、無事に救出された。このように、性悪説の「常識」がいくつも検証され、ことごとく否定されていく。ホンマですか……。人間は戦争で殺し合ってきたやないですか。

 そのような行動は決して本性に基づくものではないと論じる。第2次世界大戦の戦場で銃を撃ったことのある米兵は15~25%に過ぎなかった。それも、襲撃で命が危険にさらされた際ですら、ほとんどの兵士は発砲しなかった。また、第1次世界大戦の塹壕(ざんごう)戦で対峙(たいじ)していたドイツ兵とイギリス兵は、クリスマスイブに聖歌を共に歌いプレゼントを交換しあっていた。

 なのにどうして? 理由のひとつは、驚いたことに共感であるという。「共感はわたしたちの寛大さを損なう。なぜなら、犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに『敵』と見なすように」なり、善人が悪人へと転じてしまうから。そして、より重要なのは「思いやり」だと結論する。

 上下2巻と大部だが、全編、説得力は十分で一気に読める面白さだ。エピローグの「人生の指針とすべき10のルール」は心に刻みつけた。33歳というこの本の若き書き手の考え方を全面的に支持したい。それがきっと希望の未来につながっていくはずだから。野中香方子訳。

読売新聞
2021年11月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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