なぜ「ビートルズ」だけが別格なのか 彼らが残した「捨てきれない甘い幻想」

対談・鼎談

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ビートルズ

『ビートルズ』

著者
北中 正和 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784106109225
発売日
2021/09/17
価格
858円(税込)

書籍情報:openBD

なぜビートルズだけが別格なのか?

[文] 新潮社


ビートルズ

ピーター・バラカン×北中正和・対談「なぜビートルズだけが別格なのか?」

世界的ロックバンド「ザ・ビートルズ」を題材に手がけたドキュメンタリー映画「ザ・ビートルズ:Get Back」が公開された。グループ解散からすでに半世紀。にもかかわらず、いまなおカリスマ性を失わず、時代、世代を越えて支持され続けている。なぜ、彼らだけ別格なのか――。
そんな彼ら自身と楽曲群の地理的、歴史的ルーツを探りながら、その秘密に迫った書籍『ビートルズ』が9月に刊行された。著者である音楽評論の第一人者・北中正和氏と1960年代をロンドンで過ごしたピーター・バラカン氏が、1960年代当時の時代背景やそれぞれの記憶をもとにその謎について語り合った。
(前回、最初は「田舎者」だったビートルズは一夜にしてヨーロッパを完全制覇したの続き)

 ***

「レヴォリューション」の真意


北中正和さん

北中(以下、北) 11月に映画『ザ・ビートルズ:Get Back』が公開されるので、5分くらいの映像が宣伝で流れてますけど、ご覧になりました?

バラカン(以下、バ) 観ました。すごく興味を持ちましたね。かつては『レット・イット・ビー』として公開された69年のゲット・バック・セッションが、今回は『ザ・ビートルズ:Get Back』として公開されるわけですが、あの映画を観たときに何も面白くなくて、なんか暗い感じのものだし、これは観たくなかったなあと思ったくらいだったから、もう一度観たいと思ったことはなかった。それが今回、えっ、こんなに違うのって思うくらい、本当にびっくりしましたね。6時間あるっていうから、観るのも大変そうだけど、でも、どういう内容なのか興味があるな。

北 僕は『レット・イット・ビー』を観た時に、確かに口げんかするシーンとかもあったんですけど、まあいろいろ演奏場面が観られたのが楽しくて、それほど暗い印象は受けなかったんですよ。

バ そうかそうか。もしかしたら僕の記憶が偏っているかもしれない。

北 でも暗い印象を持った人が多いですよね。

バ うん。やっぱりブライアン・エプスタインが死んで、ちょっと方向性を見失ってビジネスもうまくいかなくなって、いろんな問題があったから、ゲット・バック・セッションももう一度原点回帰のつもりでやってたわけだからね。まあ、でも結局あそこまで成長したバンドが原点回帰はできないということになったんですね。そういうものなんだね。

北 音楽的にも人間的にも成長を続けていったら戻れないですよね。

バ そうそう。でもファンにはそれがわからない。自分ももちろんそうだったんですけど。今この年になると音楽聴いてて、もっと距離ができるっていうかね、客観的に物事を考える余裕が出てきたのかな、ようやく。

北 当時は音楽にまつわる情報がイギリスでも少なかったかもしれないけど、日本ではもっと少なかった。そのぶん想像を膨らませて過大な期待を、夢を抱いたこともあった。それが楽しかったんですけどね。音楽が本当に未来を創る手立ての一つになるかもしれない。ディランを聴き、ビートルズを聴き、ストーンズを聴き、ジミ・ヘンドリックスを聴いていると、幻想を抱くなというのも難しいですよね。

バ そうだよね、幻想だと思ってなかったからね。本当に音楽で世界を変えられるって言って、みんな本当に思っていた。でもね、あの時代をリアルタイムで生きた僕らの世代は、北中さんはどうかわからないけど、いまだに僕はどこかそういう甘い理想が、残ってるんですよ。捨てられない。捨てきれないっていうのかな。それでいいとどっかで自分も思ってます。

北 どこかでそういう気持ちは持ち続けてますよね、みんな。日本は60年代後半、学生運動が過激になったんですけど、イギリスとかロンドンは当時どうだったんですか。

バ えーと、一部でやってましたね。僕はちょっと若くて、参加しなかった。北中さんは参加してました?

北 デモを見に行ったりするくらいで、ヘルメットをかぶって何かをやったというわけではないんですけど。

バ たしかに、なんかあんまりそういうタイプには思えない(笑)。

北 ただ、それを抑圧する機動隊を見ると、やっぱりひどいなーと思いますよね。

バ あの様相はねえ、テレビのニュースで日本の学生と機動隊のぶつかり合いを見て、ものすごくびっくりしたのを覚えている。えっ、学生ここまでやるのかって。

北 僕が大学を卒業するときに、大学が全学ストライキになって、おかげで卒業研究もしないで出られたんですけど(笑)。ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」とか、ビートルズの「レヴォリューション」があった時代ですよね。「レヴォリューション」でジョンが言っている〈革命に名を借りて何か権力欲を満たすみたいなのには俺は与しないよ〉っていうのは、激しい運動をやっている人が、必ずしも正義のためにやっているとは限らないということですよね。冷めた目で見ているけれども、世の中変わってほしいという思いもあって、そういう気持ちと共鳴する音楽としてビートルズやなんかを僕は聴いていた気がするんです。学生運動をやっている人たちが本当にビートルズを聴いていたかというと、日本では多くはなかったと思いますね。

バ うーん。日本に来て初めて知った話だけど、ビートルズが来日した時に、教育委員会が各地で子供たちがコンサートに行かないようにしていたとか、いや、それはちょっと本当に驚きでしたね。あの、髪を伸ばすことが不良だみたいなのは、たぶんイギリスでは数か月で終わっちゃいましたね。もうみんなが髪を伸ばし始めたから。

北 日本では70年代初めくらいまで髪を伸ばすのは変だと言われ続けました。

バ そうね、僕が日本に来てみんなによく言われたのは、日本は70年代に入ってロックが初めてリアルタイムで紹介されるようになったって。あ、なるほどな、やはり社会が違うんだなっていうのは、それで意識させられた。

音楽の間口の広さ

北 今回の本を書くにあたって、忘れていた曲も含めて、いろんな曲を聴き直したんですけど、すごく印象的な曲をたくさん作ったグループだなあと、ありきたりな印象ですが、確認したところもありましたね。だから時代を超えても受け入れられるのかなあと。

バ 本にも書いてあったけど、本当に音楽の間口が広いんですよね。彼らが作った曲のカヴァーがものすごく多いでしょう。しかもあらゆるジャンルでのカヴァーがあって、どんな編曲をしてもちゃんと生きてくる曲がすごく多いと思う。それは、彼らが元々たくさんのいろんなタイプの音楽を聴いていたからかもしれないね。

北 それを担っている土台の部分がみんな広いからということなんでしょうね。マーク・ルイソンの大著『ザ・ビートルズ史』で初めて知ったんですけど、ジョンの友達が、アメリカ大使館からレコードなんかを借りていて、カントリー・ブルースとか、そういう古いものまで聴いていたそうです。

バ へー、ジョンの若いころを描いた『ノーウェアボーイ』っていう映画の1シーンで、ジョンが盗んだレコードを持ってて、それがクソだって言って、友達と交換するんだけど、交換して友達からもらうのがスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」なんだよね。あれはフィクションなんだろうけど。ちょっといいタッチだなあと思って。カントリー・ブルーズまで聴いてたんだ。デビュー前でしょう?

北 そう、アマチュアの頃ですね。

バ あの時代、ああいうレコードはほとんどないはずですよ。カントリー・ブルーズって言ったら、ロバート・ジョンスンの、ジョン・ハモンドが作った最初の『キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ』は61年発売だけど、イギリスでその時代に出てたかなあ? ほとんど誰も知らないと思う。あと、ブルーズマンの再発見が本格的になるのは、63、64年くらいだからね。

 60年代の初頭だったらライトニン・ホプキンズが町のレコード屋にちょこっとあったり、あとジョシュ・ワイトのことも書いてましたっけ? あれはジョージが聴いてたのか。フォーク・リヴァイヴァルの延長線上に、割と白人に聴かれていた人だから、彼のレコードはちょこちょこってありましたね。ジョンは、ブラインド・ウィリー・ジョンスンを聴いていたとも書いてあったけど、そんなのをもし聴いていたとしたら、どうやって知ったんだろう、びっくりしますね。

変わり続けること


ピーター・バラカンさん

バ 時代を軸にしてビートルズが次々に何をしていったかというのは割とよく書かれて知られている。でもそういう本を今書いてもしょうがないと思う。書き手の独自の観点をもって書いてこそ、今読んでもらえるものなんだろうと思います。この本はカリブ、インド、アフリカの人たちとか、そういう英米以外の音楽の要素とビートルズとの接点が良く出ていて、そこが面白いと思います。あと、北中さんが自分の頭の中で推測している部分があって、そこも妙に面白い。ちょっと穿ちすぎかもしれないとか書いてるんだけど、でも、ああいうのを読むと自分も普通考えないことをちょっと考える。そういう面白い刺激があちらこちらにある。

北 僕が60年代にビートルズに学んだことは、変わり続けるというか成長し続けることの面白さだったんです。成長できたかどうかは全然心もとないんですけど、変わり続けるのは興味の対象にしてもそうですし、ほとんど自分の性格のようなものですね。この年で勉強して、知らなかったことを知るのはずいぶん刺激になりました。これは高齢化時代の時間の過ごし方のヒントになるぞという感じで(笑)。

バ でも、本の一番最初に、なぜ彼らだけが別格なのかっていう問いがあるけど、そこはまだ謎が残るよね。

北 まあ、謎を考え続けるのが楽しみでもあり、その手がかりにしていただければ幸いなんですけど(笑)。

新潮社 波
2021年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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