『WILDHOOD 野生の青年期』
- 著者
- バーバラ・N・ホロウィッツ [著]/キャスリン・バウアーズ [著]/土屋晶子 [訳]
- 出版社
- 白揚社
- ジャンル
- 自然科学/生物学
- ISBN
- 9784826902311
- 発売日
- 2021/10/18
- 価格
- 3,300円(税込)
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若者がバカなのは生物学的に普遍の現象なのだ――?
[レビュアー] 角幡唯介(探検家・ノンフィクション作家)
若い頃にチベットの峡谷地帯を探検したとき、三割の確率で死ぬだろうと思っていた。それでも実行したのは、それをやらなければ生きている意味がないと思ったからだ。それ以来、なぜそんなことをするのですか? と訊かれてきたし、私自身それを自問している。でも、この本を読んで意外な角度から光を投げかけられた気がする。驚いたことに動物もまた冒険をするというのだ。
人間同様、動物も冒険は青年の特徴だ。ペンギンやラッコの若者は天敵のいる危険な海で泳ぎ、オオカミは大人になる前に家族のもとを離れて旅をする。ハイエナの子供も勇気ある決断をくだすことで群れの中での地位をあげることがあるという。
お前が言うなと思うかもしれないが、動物の若者たちが無思慮で無鉄砲なことがとても新鮮だった。全然わかっていないのに、ヤバいところに突っこむ。というか、わかっていないからこそ突っこめる。これは人間の若い冒険家とまったく同じだ。
私たちは、動物には本能があって、生まれながらにして危険回避能力をもっているとみなしがちだ。だが事実はそうではない。ワシの中には雛が成長した途端に巣から追い出すのもいて、子供は狩りの経験もないのにいきなり自活を強いられる。もちろんこうした非情なやり方は生存戦略につながる。旅や危険をつうじてリスクについて学習しないと大人になってから生きてゆけない。それは若者から大人へと成熟するために必要なステップだ。彼らもまた失敗し、考え、学び、経験を蓄積する必要があるのである。
若者は総じてバカであり私もバカだった。あのときの冒険で人間として成熟できたのかは微妙だが、それはともかく、バカなのは生物学的に普遍の現象なのだと言われると社会を見る目が少し変わる。つまり若者は変に利口になって大人ぶるのではなく、むしろバカでなければならない。生き物としてそれが正解みたいだ。