『リズム・マム・キル』×猫 『リズム・マム・キル』著者新刊記念エッセイ 北原真理 

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

リズム・マム・キル

『リズム・マム・キル』

著者
北原真理 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914318
発売日
2021/11/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『リズム・マム・キル』×猫 北原真理

[レビュアー] 北原真理(作家)

 昔、息子が猫を拾った。ハロウィンにやってきた南瓜色の猫は、息子の“む”をとって“むーちゃん”と名づけられた。

 死にかけたヨボヨボの老猫むーちゃんは、介護の甲斐あって持ち直したのだが、持ち直してみれば、萎(しお)らしかった態度の裏に強烈な毒母が隠れていたことが判明して、北原家一同、愕然としたのであった。

 殆ど寝たきりのこの猫、自分の何倍も大きい犬を顎で使うのである。我家にはマイクという気の良いボーダー・コリーの兄(あん)ちゃんがいるのだが、喉が渇けばにゃんと鳴いてマイクに私を呼びに行かせ、粗相をすればにゃんと鳴いて私を引っ張って来させて尻を拭かせる。腹が減れば濁声(だみごえ)で威嚇してマイクのおやつを奪う。最初の頃の優~しくマイクの頭を舐めていた母性溢れる姿はどこへやら、いつの間にか、毒母と逆らえぬ息子のような関係が二匹にはできあがっていて、これが人間ならエライコトだと私は心底、思ったものである。

 己の欲求を叶えるための道具として息子を使うエゴイスティックな母と、畏縮して言いなりになってしまった心優しい息子の図。世の中には、きっと、こういう支配・被支配の関係で、心身をすり減らしている子供達もいるに違いない。

『リズム・マム・キル』の登場人物達も、母という名の十字架を背負わされ、虐げられてきた者達だ。主人公のるかは、それでも人生に抗い、立ち向かう。弱く思慮に欠け、ときに残酷でさえあるが、十二歳の少女なりの筋は通す。

 親子間の確執は根深い。濃く長い絆ゆえに、時に、殺人にも至る惨事を引き起こす。子供は、母というダンジョンに迷い込んでしまったら、早めに脱出を図った方がよいのである。でないと『リズム・マム・キル』の世界に陥る。

 さて、もうすぐ、むーちゃんの命日がやってくる。ちなみに、母猫は己の仔猫(こども)を喰らうこともあるらしい。にゃ、にゃんということだ。

光文社 小説宝石
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク