戦国時代の飯は「貧相」か? 『かすてぼうろ 越前台所衆 於くらの覚書』著者新刊エッセイ 武川佑

エッセイ

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かすてぼうろ

『かすてぼうろ』

著者
武川佑 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914349
発売日
2021/11/25
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

戦国時代の飯は「貧相」か? 武川佑

[レビュアー] 武川佑(作家)

 料理史において、戦国時代は明確に「中世」である。日本料理に欠かせない醤油が生まれるのは江戸時代。地引網漁で多彩な魚を引き揚げる漁法の普及も江戸時代。竈(かまど)にカポッとはめて米を炊くいわゆる「羽釜」の発明も江戸時代である。戦国時代の庶民は腹を満たすため一日五~六合の米を食べていたというが、もちろん白米であることは珍しく、稗(ひえ)や粟、麦、玄米が混ざったものだった。

 現代の私たちからすれば、戦国時代の食文化は非常に貧相なものだった。それが通説だ。では当時の人々は本当に自らの食文化を「貧しい」と考えていたのだろうか? 執筆にあたり、私は「たぶん違うのではないか」と考えた。やっとありついた飯を美味しく食らい、そして明日の飯を楽しみにしていたのではないだろうか。戦乱の世において明日をも知れぬ命だからこそ、生きることに直結する食を、精一杯楽しんだのではないだろうか、と思ったのだ。

 そして少女「於(お)くら」が生まれた。越前国(えちぜんのくに)の貧しい百姓の子で城働きの下女である彼女が人に寄りそう料理を作るため、大名の台所衆(料理人)を目指す物語。身分制社会が確立し、「士(さむらい)」が大名の台所の役目も担うようになった江戸時代では、そのようなストーリーは難しいかもしれない。しかし戦国時代の混乱期ならば、於くらのような人物もいたかもしれない。いたらいいな、という願いをこめた。

 執筆の最中はとにかく楽しく書いた。正直者で素直な性格の於くらという少女を大好きになり、「仏の茂助(もすけ)」と称された堀尾吉晴(ほりおよしはる)の心優しい殿ぶり、堀尾とはまた違う結城秀康(ゆうきひでやす)の好漢ぶりを慕わしく思った。書き終わるのがただただ惜しかった。「わしも出してくれい」とばかりに織田信長(おだのぶなが)や明智光秀(あけちみつひで)といった歴史上のスターまでも出てきたのは作者ながらに愉快だった。この物語を読んで、殺伐とした戦国時代の新たな一側面を発見してもらえたら嬉しく思う。

光文社 小説宝石
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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