『青森1950-1962工藤正市写真集』工藤正市著(みすず書房)
[レビュアー] 柴崎友香(作家)
青森県の地元紙・東奥日報のカメラマンで、写真雑誌の投稿でも評価されていた工藤正市が青森市の人々を写した写真。遺品を片付けていた娘さんが大量のフィルムとプリントを見つけ、コロナ禍で整理する時間ができてSNSで公開。多くの人を魅了して(私もその一人だ)、写真集が出版された。
終戦から10年前後の北の街の暮らし。まだアスファルトでない路地で遊ぶ子供たちも、海辺や小さな商店で働く人々も、目に焼きつくような存在感がある。自身が生活していた場所であるからこその親しみや慈しみが、一枚一枚に詰まっている。人と人の距離が近く、北国の気候と共に営まれる暮らしが写し出されている。撮影場所が示された当時の青森市街の地図が掲載されているのもとてもいい。
カメラをじっと見つめる視線。ゆっくりページをめくっていると、ここに写っている人たちにたまらなく会いたくなる。