『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る The Age of Wood 』ローランド・エノス著(NHK出版)

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「木」から辿る人類史

『「木」から辿る人類史』

著者
ローランド・エノス [著]/水谷 淳 [訳]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784140818749
発売日
2021/09/28
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る The Age of Wood 』ローランド・エノス著(NHK出版)

[レビュアー] 木内昇(作家)

加工重ねて築いた文明

 知人が以前、京都・知恩院の三門を前にして言ったことがある。「これが建った時代、絶対Macがあったと思う」。コンピュータでのシミュレーションなしに、あそこまで複雑な木組ができるはずはないというのである。けだし、もっとも。しかし人類が木と親しみ、これを知り尽くした歴史は、AIをも凌駕(りょうが)するのだ、たぶん。

 樹上生活をしていた類人猿が地上に降り、木製武器を作って狩猟をする。やがて木を使って火を熾(おこ)し、調理をはじめる。木造小屋で冷たい外気を遮り、体温を保てたことによって体毛が失われていく――人類の進化には木が深く関わっている。木を加工することで文明が開かれていく過程を、地質学、建築学、人類学といった複数の観点から読み解いたのが本書である。

 木造船が作られて交易が可能となり、加工技術の向上によって彫刻や家具、楽器が生み出される。さらに木の剛性や硬度を綿密に見極めた建造物が登場する。ゴシック建築で多用されたアーチ型の曲面で構成されるボールト天井や、ハンマービーム屋根は、開放的な空間を可能にした。地震の多い日本の寺院は、中央に柔軟性の高い木製の心柱を通すことで揺れを吸収し、塔の倒壊を防いでいる。職人たちの力学的設計への模索は奥が深く、堅固で機能的な構造を目指した結果が芸術的な木組の美しさをもかなえていく過程は、とりわけ感慨深かった。

 現代に入り、鋼鉄やコンクリート、プラスチックといった扱いやすい素材が汎用(はんよう)される中でも、合板や集成材など加工しやすい形に変じて、木は人の暮らしを支え続ける。一方で、森林伐採による環境への影響についても言及され、いかに森を保全しつつ木を扱うべきか、考えさせられる。木の家や家具が持つ心休まるぬくもり。紙の本のやさしいにおいや手触り。おそらく人類のDNAに染みついているだろう、木との親密な関係をどう健全に保っていくか。それが今、私たちの背負うべき課題なのだ。水谷淳訳。

読売新聞
2021年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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