『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』山本健人著(ダイヤモンド社)
[レビュアー] 南沢奈央(女優)
心躍る高度な仕組み
肘をぶつけるとびりびりと電気が走る。頭にタンコブができる。走っても、カメラみたいに目に映る景色はぶれない――。当たり前のように、そうであると知っている。だが、なぜそうなるのか、理由は知らない。
自分の体のことなのに、いままで知らないことが多すぎた。本書を読みながらそれに気づいた時、わたしの胸にあったのはわくわくだった。自分の持つ体にこんなに凄(すご)いシステムがあったなんて! 全く使いこなせていなかったスマホの機能を知ったように、驚きと感動の連続。そして、自分の体を確かめたくなる。片足が10キログラム以上あるなんて感じたことがなかった。肛門も凄い。“実弾”と“空砲”の区別ができる高度なシステムがあるからこそ平気でおならができたのだ。目の機能を知っていれば、夜中のトイレからベッドに戻る時、真っ暗な中で壁に足をぶつけることもない。涙を流したときに出る鼻水も涙だったとは。自分の体を知って使いこなせたら、もっと楽しいのだろう。
このように神秘的な仕組みのこと、病気、医学史、健康の常識、現代の医療と、5章に分けてさまざまな角度から人体と向き合っていくことになる。現在の進んだ医療があるのも過去の発見の積み重ねの上であり、人が「健康」であることも極めて微妙なバランスによって成り立っているのだという、奇跡を感じる。ジャンルでいうとサイエンス書になるが、専門知識のないわたしでも、“勉強する”というよりも“知りたい”という気持ちでぐいぐいと読み進められる。興味の扉は完全に開かれ、最後にはその先の道標のように読書案内まで付いている。
わたしたちは、すばらしい人体を持っている。そこへ目を向けただけで、誰もが心躍ることだろう。だって、自分の可能性に気づくことのできる機会でもあるから。まだまだ体には、魅力的な未知の世界が広がっている。冒険しがいがあるってもんだ。