タイ、沖縄、韓国……女風呂と男風呂 湯舟で聞いた裸の戦史

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戦争とバスタオル

『戦争とバスタオル』

著者
安田 浩一 [著]/金井 真紀 [著]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750517100
発売日
2021/09/11
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

タイ、沖縄、韓国……女風呂と男風呂 湯舟で聞いた裸の戦史

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 人は風呂では無防備になる。湯舟に浸かって「うー」とか「あー」とか声に出したあと、知らない人と話をすると素直になる気がする。

 ある日「銭湯友だち」の著者ふたりがいろんなお風呂に入って歴史修正主義を蹴っ飛ばす本を作ろうと話がまとまる。女風呂と男風呂では話の内容も違うだろう。交互に書かれた文章は性別による見解の違いが反映されていて興味をそそられる。

 バスタオル持参で出かけた先はタイ、沖縄、韓国、神奈川県寒川、広島県大久野島。

 勇んで行ったタイ中部カンチャナブリーのヒンダット温泉はジャングルの中、渓流のそばの露天風呂だった。第二次世界大戦中「泰緬鉄道」建設中に日本兵が見つけたという。タイとビルマを結ぶこの鉄道の建設は映画『戦場にかける橋』で広く知られるように、連合国軍の捕虜とアジア各国から徴用された労働者の劣悪な強制労働によって完成した。

 かつての秘湯も今ではSNSで世界に発信され、老若男女も宗教も関係なく多くの人が詰めかけていた。そこで出会った現地の高齢女性から温泉の来歴を聞き、この温泉を見つけた若き日本兵の幻を見る。

 沖縄唯一の銭湯「中乃湯」では、基地問題に取り組む安田は男湯で、沖縄角力の取材の金井は女湯でナマの戦中・戦後史を聞く。家まで押しかけて話を聞けたのも、出会いが裸だったからだ。

 圧巻は韓国でのお湯めぐりだ。日本の植民地時代に開発された温泉は、いまでは人気の観光地。風呂の中で日本の演歌を大声で歌う90歳の案内人は戦後、韓国に残された日本人のために力を尽くしてくれた人だ。彼の人生=日韓関係の歴史である。

 国内二か所は戦争中に行われた毒ガス製造の現場だ。正直、全く知らなかったことを恥じた。

「お風呂は究極の非武装」。切り口をお風呂にするとこんなに面白い話が聞けるのか。続編を期待したい。

新潮社 週刊新潮
2021年12月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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