「最後の聖域」に踏み込むテクノロジー

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ブレインテックの衝撃 ――脳×テクノロジーの最前線

『ブレインテックの衝撃 ――脳×テクノロジーの最前線』

著者
小林 雅一 [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
総記/情報科学
ISBN
9784396116385
発売日
2021/09/30
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「最後の聖域」に踏み込むテクノロジー

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

 功成り名を遂げた生物学者が、最後の研究テーマとして「脳」を選ぶケースは多い。脳こそが、現代の科学に残された最後のフロンティアであるからだ。そしてビジネスの面からも巨大な可能性を秘めたこの領域に、いよいよフェイスブックを筆頭とした巨大企業群が参入しつつある。

 小林雅一『ブレインテックの衝撃』は、驚くべき進歩を遂げるこの分野の最新動向を描く。脳と機械を直結することで、人類の可能性を拡張しようというものだ。外科手術によって、脳に直接センサーや電極を埋め込む過激なものから、ヘルメット型の機器をかぶるだけのものまで、手法は様々だ。念じるだけで文字を入力したり、義手を動かしたりといったことが、すでに実現している。依存症の治療や、事故などで失われた感覚の回復などの研究も進んでおり、実用化すれば大きな朗報だ。一方で、人間の心の内部という究極のプライバシーの侵害、外部からのハッキングによる動作や心理の操作、そして軍事応用まで、想定される危険は枚挙に遑がない。世界情勢を左右しかねないブレインテックの進展をめぐり、国家間の駆け引きが開始されているのが現状だ。

 人工知能の進歩に対抗するため、人間自身を改造してゆこうという動きはある種滑稽とも思えるが、世界がこの方向へ動いてゆくのは避けられそうにない。近未来における心とは、幸福とは、そして生命とは何か。心づもりをしておかねばならないことは多そうだ。

新潮社 週刊新潮
2021年12月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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