『松本隆のことばの力』藤田久美子インタビュー・編(インターナショナル新書)/『風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年』田家秀樹著(KADOKAWA)

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松本隆のことばの力

『松本隆のことばの力』

著者
藤田 久美子 [著]
出版社
集英社インターナショナル
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784797680850
発売日
2021/10/07
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年

『風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年』

著者
田家 秀樹 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041118849
発売日
2021/10/27
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

『松本隆のことばの力』藤田久美子インタビュー・編(インターナショナル新書)/『風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年』田家秀樹著(KADOKAWA)

[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

歌曲や劇も 可能性拡張

 松田聖子の「天国のキッス」とYMOの「君に、胸キュン。」がヒットチャートの1位と2位に輝いたとき、ぼくは大学院生だった。2曲とも歌詞は松本隆。ロックバンド出身の松本がアイドル歌手とテクノバンドの作詞を同時に手掛けたのがかっこよかった。日本語によるロックの模索からはじまった冒険は今も続く。彼が作詞した歌を繰り返し脳内再生しながら歳(とし)を重ねてきた、ぼくの仲間は多いはずだ。

 作詞家生活50年を迎えた松本隆のロングインタビューと評伝が出たのであわせ読んだ。インタビュー本によれば、彼は大学生の頃、ポール・サイモンの「サウンド・オブ・サイレンス」を和訳することから作詞をはじめたという。「コツで書かない」とか、貴重な音符を無駄にしないために人称代名詞は使わないようにしている、という発言を読むと、作詞の現場が窺(うかが)える。

 評伝のほうは、音楽関係者が織りなす群像劇を観(み)るような一冊で、歌詞を時代の中で読み解いていく。たとえば1975年の太田裕美のヒット曲「木綿のハンカチーフ」は、歌謡曲にもともとあった「都会」と「田舎」という二つの視点を対話でつないだのが画期的だった、と評価される。他方、インタビュー本を読むと、この歌詞は万葉集の相聞歌から着想を得たとわかる。

 2冊の本を併読すると、寺尾聰の「ルビーの指環」のミクロとマクロも明らかになる。三回時制が変わる歌詞が主人公の「未練がましい」性格を映しているのを知ると、松本が得意とした「男のダンディズム」の深さが見えてくる。

 松本はポップスの枠をも飛び出し、シューベルトの歌曲の新訳や、古事記に取材した音楽劇の作詞を手掛けて、口語表現の可能性を拡張した。融通無碍(むげ)な活躍を支えてきたのは、ことばにひそむ回復力への信頼と、自己更新を続ける想像力の強靱(きょうじん)さだと思う。自らをしなやかな受容体として、「風をあつめて」きた作詞家の仕事に、ぼくはまだまだついていきたい。

読売新聞
2021年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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