『北緯43度のコールドケース』伏尾美紀著(講談社)/『トリカゴ』辻堂ゆめ著(東京創元社)

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北緯43度のコールドケース

『北緯43度のコールドケース』

著者
伏尾 美紀 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065249963
発売日
2021/10/06
価格
1,925円(税込)

書籍情報:openBD

トリカゴ

『トリカゴ』

著者
辻堂 ゆめ [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488028497
発売日
2021/09/30
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『北緯43度のコールドケース』伏尾美紀著(講談社)/『トリカゴ』辻堂ゆめ著(東京創元社)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

女性作家の「刑事もの」

 ミステリーのあらゆるサブジャンルで女性作家が活躍するようになった今日でも、なぜか警察小説、いわゆる「刑事もの」だけは例外だった。女性の書き手の絶対数がまず少ない。女性刑事が主役の人気シリーズ作品でも、作者は男性だ。ここにはビジネス小説よりも強固なジェンダーの壁が残されているのかと思っていたら、いえいえこれからは変わりますよという、嬉(うれ)しい変革の風を呼ぶ二作が立て続けに刊行された。『北緯43度のコールドケース』は、本年度の江戸川乱歩賞二作同時受賞のうちの一作。北海道警察を舞台に、主人公は「博士崩れ」と陰口をたたかれる、三十歳で大学を辞めて道警に入ったという異色の女性刑事だ。メインの事件は未解決の誘拐事件。被害者の少女の安否が不明のまま、容疑者は身代金奪取時のアクシデントで死亡してしまった。それから五年後、被害者の遺体が発見され、事件には共犯者がいたのではないかと道警は再び色めき立つ。警察小説がお好きな方ならこの設定だけでもう読みたくなるでしょうが、これはほんの序の口だ。ここから二転三転して主人公と読者を翻弄(ほんろう)するストーリーテリングの技は新人離れしている。

 一方、辻堂ゆめさんの新作『トリカゴ』では、警視庁蒲田署刑事課強行犯捜査係の女性刑事が主人公だ。発端となるのはマンション内で住人の男性が刃物で襲われ怪我(けが)をしたという事件で、大げさな始まり方はしない。ワーキングママで、後輩刑事との世代ギャップに鼻白む主人公には親しみを覚える。そして彼女が捜査を進めてゆくうちに「無戸籍者」たちのコミュニティを発見、そこにかつて日本中を震撼(しんかん)させた“鳥籠事件”の被害者が存在していると知ったとき、物語は走り出す。事件の核である無戸籍の問題についても、少しは知っているつもりで読み進む私たちの前に、悲痛な現実を突きつけてくる。重苦しいテーマに向き合いながら、雪折れしない柳のようにやわらかな文章が魅力的だ。

読売新聞
2021年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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