『強迫症を治す』亀井士郎、松永寿人著(幻冬舎新書)
[レビュアー] 柴崎友香(作家)
何度も手を洗ったり施錠や火の元の確認を繰り返したり、数字の並びや縁起が気になったり。少々なら誰にも覚えのあることでも、ストレス等のきっかけで「不安の炎」が燃え上がると、次々と不安の対象が拡大、自分でも度を超えていると思いながらも強迫観念と不安を解消しようとする行動が悪化し、日常生活が困難になっていく。
本書は、強迫症を発症した若い精神科医が、強迫症治療の第一人者である精神科医と共に症状や原因・メカニズムと治療・回復の過程を解説する。経験を元にした経過は具体的で臨場感があり、非常に伝わりやすい。「確認系」「汚染/洗浄系」「ピッタリ系」などの症例や背景、認知行動療法を中心とした治療法までわかりやすく整理されている。強迫症を患う人は、長期にわたる困難で疲弊しているうえ、治療につながる機会が少ない。治療は本人の認識が重要なこともあって、多くの人に届けるため新書を希望したとの著者の思いに、読んでいくと頷(うなず)く。
人間の不安や感覚の不可解さやままならなさに関心のある人にも示唆の多い本だと思う。