『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』岩間一弘著(慶応義塾大学出版会)

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

中国料理の世界史

『中国料理の世界史』

著者
岩間 一弘 [著]
出版社
慶應義塾大学出版会
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784766427646
発売日
2021/09/14
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』岩間一弘著(慶応義塾大学出版会)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

広がり根付く 味の強み

 中国料理を通じて、どこか広いところに連れ出してくれる本である。それは世界史を一国史の集積と見るのではなく、人とモノが交流し変容していく大きな循環のもとで見ることを可能にする。「もし一国史の叙述が、専門料理店に喩(たと)えることができるならば、世界史の叙述は、ビュッフェレストランやフードコートに近いものになるのではないか」ということだ。そして、この本のメインディッシュは中国料理である。

 一方で中国料理は中国の政治思想と深い関係にあることが明らかにされる。清朝では、満州族の宴席料理である「満席」と漢族のそれである「漢席」が区別されていたが、清末になると民間で「満漢席」という両方の料理から選(え)りすぐった最高級の宴会料理が生まれた。ところが、清朝が滅ぶと、漢族中心の排他的な民族主義の高揚に伴い「満漢席」と同じ内容のものが「大漢全席」と呼ばれた。しかし、その後、現在の中華人民共和国において、政府の保護下で「満漢全席」が復興されているのである。

 他方で、中国料理は国境を超えて、世界中の国々で受容され、現地化し、中にはその国の国民食になったものまである。現地化したものとしては、日本の卓袱(しっぽく)・普茶料理、シンガポールやマレーシアのニョニャ料理、アメリカのチャプスイが挙げられるし、国民食になったものとしては、日本のラーメンや餃子(ギョーザ)、韓国のチャジャン麺、ベトナムのフォー、タイのパッタイ、シンガポールの海南チキンライス、インドネシアのナシゴレン、ペルーのロモ・サルタードなどが挙げられる。こうした伝播(でんぱ)と現地化のダイナミズムこそが、中国料理の真髄なのだろう。

 他にも、中国料理に使われる回転テーブルの普及が衛生に関わっていたことや、味の素が広がることで世界の中国料理の味の均質化が進んだことなど、実証に基づく豊富な知見が随所にちりばめられている。中国料理に関心のある方には座右の書に加えてほしい一書である。

読売新聞
2021年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加