『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』樋口大良著(山と渓谷社)

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ヒルは木から落ちてこない。 -ぼくたちのヤマビル研究記

『ヒルは木から落ちてこない。 -ぼくたちのヤマビル研究記』

出版社
山と溪谷社
ISBN
9784635063081
発売日
2021/08/16
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』樋口大良著(山と渓谷社)

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

教えすぎず 結論急がず

 こどもの科学的な好奇心や思考力、研究遂行能力ってこんなにすごいんや。40年近く生命科学を生業(なりわい)にしてきた者として、素直に感動した。

 山を歩いていると知らない間にヒルに血を吸われていることがある。ヤマビルはヒトや動物をめがけて木から落ちてくると昔から言い伝えられているが、本当だろうか。ヒルに血を吸われ続けながらも、果敢にこの大いなる(?)謎に挑んだのは、三重県の鈴鹿山脈で活動する「子どもヤマビル研究会」のこどもたちだ。メンバーが入れ替わっていく中、長年にわたって成果をあげ続けてきたのは、指導者である著者・樋口大良(だいりょう)さんの力量によるところが大きい。

 学校での勉強と違って、正解はどこにも書かれていない。ヒルの動きのようにゆっくりと、焦ることなく、正しそうな方向へと進むべく論理的に指導していく。必要ならば、実験方法の開発もおこなう。さらに、研究において最も難度の高い、どういう問いを立てるべきかも考えさせる。決して教えすぎない姿勢が素晴らしい。

 ヒルが本当に落ちてくるかどうか、ヒル忌避剤「ヒル下がりのジョニー」を周りにかけたシートの上で、傘を逆さにして検証しているのが表紙の写真である。なんだか微笑(ほほえ)ましい。採集、飼育、解剖、吸血(!)など、みんなの「ヤマビル愛」あふれる研究シーンの写真が豊富に載っていて、見ているだけで楽しくなってくる。

 解剖していちばん大きく目立つ器官は、意外にも膣(ちつ)だそうだ。そのことを知り、無邪気に興奮して「膣、膣」と連呼する小学生の子に「聞こえないふりをしてぐっと我慢」したお母さんがおられたというのもちょっと笑えてしまう。

 幼いころの素朴な好奇心を忘れてしまったかのような大学生も多い。大学入試のための詰め込み教育が良くないのではないか。いったいどうすればいいのだろう。定年を間近に控えた老教授(=私)は、この本を大いに楽しみながらも、淋(さび)しくため息をついたのでありました。

読売新聞
2021年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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